【レポート】政策提言調査室 第1回勉強会

2016.9.22

日時:2016年8月28日(日)17:00~21:00

参加者:奥野(室長、司会)、横山、柿崎(非会員)、崎田、藤原、緑川、北原、塚口(スカイプ)、西山

 

1、勉強会開催の経緯、ON-PAMのステートメントについて(奥野室長)

・今年2回開催した企画委員会を通じて、政策提言の策定までのプロセスを整理し、今年度はまずON-PAMのステートメントを作成することからスタートする。目的は「自分たちは何者なのか?」「何を主張したいのか?」を明確化すること。

・ON-PAMとはどのような集団なのかを理解するために、データ分析を行い、活動拠点、年代、業態、などを統計化した。

 

2データ分析結果についてのディスカッション1 活動拠点地域分類からよみとれること

・北海道を拠点とする会員が0人だった、半数近くが東京に集中している。四国、九州など、もっと拠点はあるはずだが実際に活動参加率の比較的高い人以外に会員はいない状況。東北は震災復興の事業が集中している地域であるにも関わらず、会員がいないことは震災復興事業を、いかに東北を拠点にしていない人々が外部からになっているのか、ということを意味する。(奥野)

・以前は会員がいた地域もあるが、設立から数年たち、退会してしまった人もいる。他方、こういった地方に赴いて地元の制作者に尋ねると「参加のタイミングをうかがっている」という声を非常によく聞くので、潜在的にON-PAMの活動に関心を持っている/持っていた制作者はおり、必ずしもこれらの地域では舞台芸術活動が行われていないということではないと考える。(藤原)

・そもそも地方では事業の数などから言って、舞台芸術制作の専門家として生計を成り立たせることが難しく、専門の舞台芸術制作者の存在は希少と言わざるを得ない(横山)

 

3.データ分析に関するディスカッション2 話題はプロ論へ

・生計を成り立たせていることがプロの条件とすると、プロの舞台芸術制作者が希少なのは都市でも同じだと思う。プロかそうでないかの線を引くのは難しい。これは俳優などについてもいえること(西山)

・1円も収入がなく、むしろ赤字の人も少なくない。プロかプロでないかの議論からいったんはなれ、ヴィジョンを共有している集団であるかどうかという観点で舞台芸術制作者を定義してはどうか。収入や労働環境を問題とするならば、プロであることの条件に労働環境や収入が関係してくるが、ON-PAMで扱っていることは、むしろ理念や倫理、ビジョンを共有しているかどうか、ということが問題になってくるように思う(藤原)

・舞台芸術制作者の専門性が明確に定義されていないのことに原因があるのではないか?たとえば国際交流基金では、造形美術分野であれば外部のキュレーターを「専門家」と位置づけ調査派遣そのものを事業化することで、単年度予算でありながら事業準備を複数年にわたり継続的に行っている。舞台芸術分野ではキュレーターにあたる制度が無く、プロダクションの内部であるプロデューサーやアーティスト自身が視察・調査をして作品作りをスタートすることが一般的なため、事前の調査派遣を組むことができず前広に事業準備をすることができないため、事業意義が突き詰めきれないことが少なくないと感じる(西山)

・大学で取得できる学芸員資格がこれに当たらないだろうか。例えば愛知芸術文化センターの唐津絵理さんは学芸員資格を持っている。唐津さんは正規職員だが、その下で事業の企画に従事する学芸員資格保持者は嘱託採用となり、キャリアアップが望めない。また「芸文センター」は美術館とホールを混合した複合施設だから可能なことであり、全国でも大変まれな状態といえる(奥野)

・専門的な職能というと、例えばプログラムディレクターを設置している公共ホールは少ないが複数ある。公共施設のプログラムディレクターである以上、自治体の政策とプログラムの目的の関係性をいやでも考えることが仕事となってくるが、ではプログラムディレクターになるために資格を求められるかというと、そうではなくあくまで経験値や実績が重視される。(西山)

・美術分野のキュレーターは個人の能力に依拠して事業が成り立つことが多く、顔がみえる体制だが、舞台芸術はそういうことはあまりない。例えばF/Tではディレクターを全面にだしてプログラミングを行っていたがその体制は長期的に継続しなかった(奥野)

・作品そのものが物質的に財産として残る美術と異なり、舞台芸術作品は財産(プロパティ)にはならないということが、両者におけるキュレーターの権限に関係している(西山)

・「全ての制作者に共通の専門性」というと難しいのでは。公共機関のなかでの、などと限定すれば分かりやすくはなる。ON-PAMが考える専門性とは何かを考えたい。ON-PAMはオープンネットワークなので、会員の属性によってネットワークそのものの特性が変化していくことが特徴といえる。例えば「劇音協」など、もっと限定的なネットワークもある。労働組合運動的なものであればそれがもっと見えやすくなる。定款では「舞台芸術が多様な・・・社会に活力をもたらす」とあるが、一つの考え方の糸口になる(藤原)

 

4、データ分析に関するディスカッションを超えて―プロの制作者に必要な専門性とは

・学芸員の仕事は、過去の蓄積のなかから作品を価値付けすることにあり、これに対し制作者は「この作品をどうすれば上演できるか」という現在の状況を解決するためのノウハウが専門性につながる。消防法、著作権法を知っており、それを遵守して運用できるかどうか、など。プロデューサーの専門性はセンスの問題であり、資格は必要ないのでは(北原)

・だとすると、「センス」をきちんと言語化できていないのが問題なのではないか。そうならば、その責任は制作者自体にある。制作者自身が「センス」で仕事をしてきた結果。(奥野)

・ここで議論の対象とする「制作者」はプロデューサーに限るのか?それだけでは業界として発展できないのでは?ON-PAMでいう制作者はプロデューサーである、と言い切っていいのか?(藤原)

・必ずしもプロデューサーを名乗っていなくても、プロダクションマネージメントに関わる全ての人に、作品の価値を言葉にする能力は必要といえる。予算配分でも、企画の価値ややりたいことを理解しなければできない公共性はアウターブランディング、自分たちの中での理解の言葉はインナーブランディング(奥野)

 

5、データ分析に関するディスカッション その3 再び地域の話

・香川県が地元で、近年芸術による地域振興が盛り上がってきている。日ごろ、自分のオファーされた劇場・フェスティバルのプログラム・ラインナップと、ほかのものを比較して、自分たちの作品の位置付けを意識することが多い。

・アートの役割の一つは潜在的な問題に気づかせることであり、「地域活性化」という課題設定自体がアートの目的とはなりえない。アートの目的が矮小化されてしまう。様々な自治体が観光に力をいれるようになり、その予算は文化予算の10倍くらいある。例えば別府の一連の取り組みが成功したのは、文化予算ではなく巨額の観光予算がつき、しかしそれをアートディレクター主導でプログラムの目的や意義を付与したから。拠点作りをして若いアーティストと地域をつなげた功績も大きい。

・アートは問題提起、行政は問題解決と、役割には違いがあると思う(崎田)

・問題解決のためにアートは使わない、ということではないか(奥野)

・ではアーティスト側からはどうアプローチできるのか?その矛盾をうまく解決するのが舞台芸術制作者なのではないか(藤原)

・定款を振り返り目的について考えたい。第3条で「この法人は、舞台芸術を推進する者が、主体的に参加する制作者を中心としたネットワークを国際的に構築、有機的に継続させ、舞台芸術が多様な価値観の発露として社会に活力と創造性をもたらすという認識のもとに、同時代の舞台芸術の社会的役割の定義と認知普及、文化政策などへの提案・提言、その他この規約に掲げる種類の活動・事業を行うことで、舞台芸術の発展に寄与し、もって社会全体の利益の増進に寄与することを目的とする。」としている。

 

6、データ分析に関するディスカッション 世代論と人材育成

・50代、60代では「新劇団製作者協会(制作協)」の会員になっている人が多い。会員約200人。もともと入場税撤廃運動をきっかけとして1960年代に新劇団協議会を母体に日本新劇経営製作者協会が発足し、現在の劇団協の発足へとつながる。(北原)

・世代交代があることが健全だと考えるのは、ネットワークが解決しなければならない問題に直面するのが、いつも若い世代だからだと考えている。バトンを渡さない場合、若い世代が新しいネットワークを立ち上げる。素晴らしいプレイヤーが素晴らしい監督とは限らない。上司がいつまでもプレイヤーで居続けると、部下が育たない。最後のゴールを決めるのが常にスターだと、次のスターは育たない。個人の職能やスキルによって立つのではなく、構造化が必要。(奥野)

・商工会議所で人材育成のプログラムがあり、中小企業向けの管理職の課題解決研修を行けるのは当たり前になっている。(藤原)

・管理職の研修がない(奥野)

・ON-PAMとExplatの分業として、人材育成と労働環境改善のすみわけはあるのではないか。制作者は何をする人なのかを考えることから人材育成が始まるのでは。(横山)

・作品やアーティストをマネジメントしていく人材を見出す仕事に並び、いかにして作品のコンテキストと社会の関係性をつなぐか報酬を生む仕事として推進していくのがExplatの仕事だと考える。(藤原)

・多くの制作者が仕事をいつまで続けられるかわからない、正当な労働環境を与えられていないように思う、などの具体的な対応はExplatが考える課題と思うが、それ以前に制作者はなぜ社会に必要なのかを示すことがON-PAMのすべきことである(横山)

 

7、舞台芸術の必要性を言葉にする

・なぜ舞台芸術が社会に必要なのかを具体的に言葉にしていきましょうか(奥野)

・「クリエイティブで人にやさしい社会を作るための緩やかなネットワーク」を以前に提案した。19世紀までにおいて舞台芸術は最大のマスコミであった。20世紀にかけてマスコミとしての役割が失われたあとも、舞台芸術が残ったのは、「目の前にいる人間をみる」ということの作用が重要視されたから。例えば印刷技術の最大の産物はナショナリズムといわれているが、一方でカテゴリーの向こう側にあるものはマスコミニケーションにおいては消去されてしまうので、実際に顔を見て対話するコミュニケーションも必要である。グローバル化が進んでいく中で、とりこぼされていくものを回収できるのが、顔が見える関係でしか成り立たないコミュニケーションの中にある。だからこそ、クリエイティブで人にやさしい社会というのは、カテゴリーから取り残されたものを、救い上げられる社会といえる。そのような社会を作るために必要なのは弱いつながり。弱いつながりとは均一性を強調するのではなく、違いを意識しながらつながっている状態。(横山)

・20世紀に入り、情報は常に上から降ってくるものになってしまった。「ポリューション社会」というと、情報の波にのまれていくものという概念が定着した。21世紀に入りソーシャルネットワークの発達で、マスコミから発信される情報の力は相対化された。(奥野)

・むしろSNSの発達でグローバル化は促進されたと思う。(横山)

・主要なコミュニケーションツールが変容していくことはこれまでもこれからも起こるが、個の人がどのようにして相手が変わるようなコミュニケーションをとれるのか、という点に可能性がまだあるのではないか、と考えている。芸術に限ったことではないが、それが強く求められている社会になりつつあるのではないか、と思う(藤原)

・最近の脳科学で、人間の倫理的判断は「顔が見えるかどうか」で異なることが分かった。人口密度が増えるほど、カテゴリーによる統治が重要になり、顔が見える関係にもとづく判断が減ってしまう。だから目の前の人間を見る、という機会をつくることは大事である。舞台芸術は、カテゴリーによる判断から逃れるものを見せることができることにおいて、今日の社会において大きな重要性を持っている。(横山)

・日ごろの生活では今認識されていることがすべてなので、見えてないものについて考える機会のない人がほとんどの中で、あえて舞台芸術がそのような側面を社会に役立てていくことは必要である(奥野)

・芸術の経済的には非効率だとみなすことについては、懐疑的である。どのように非営利活動を成り立たせていくかは最近話題になるが、例えば間接的な経済効果も踏まえて計算するとか(藤原)

・児演協のベイビードラマ(言語を獲得する前の子供に見せる舞台芸術)育ちへの転換が求められているソーシャルブレインが形成される時期の子供に見せる。五感を通した他者との共存の教育を神経の発達に合わせて行う。(北原)

・芸術を経済効果に結び付けて有用性を示す話(たとえば「この演劇祭にいくら投資すると、いくらの経済効果がある」という話)は魅力的ではあるが、例えば同じ計算方法では道路工事のほうが費用対効果が高かったりする場合もあり、要注意である(横山)

・その点でいうと、教育が本来は経済効果が高いが、日本では取り組まない(奥野)

・多様なバックグラウンドの人々が共存する時代になり他者とのコミュニケーションが必要になったのは最近(北原)

・一方、古代日本においても芸能は、人里とそうでないところとの境界にある「市庭(いちば)」で行われており、能や歌舞伎も含め、昔から他者を受け入れる交流のツールとして機能してきた。(横山)

・参院選の結果を見て、当事者(沖縄や福島)とそうでない人とで明確に結果が分かれたことから、日本人の共感力の弱さを恐ろしいと思った(奥野)

・スキルをどのように定義するか、ということと資格の問題は相互補完的な問題。現場のスキル(たとえば予算の立て方や劇場の技術、消防法・著作権法などを知ること)と作品の価値判断能力(作品史や今日の創作の趨勢を知り、個々の作品を位置づけられるようになること)のどちらも大事だが、どのような専門性を重視していくのか。公の職業として確立していない制作者の立場をいかに確立していくのか(横山)

・自分たちの役割を訴えていけるようなステートメントを作るべき。(奥野)

・ニッセイ基礎研の稲村さんにインタビューした際「必ずしも対象を行政としないビジネスモデルを考えるということは可能性を広げるのではないか」という助言があった。行政の文化政策との関係性の中でどのように仕事が成り立ちうるのか、というのはあくまで一部であり、ON-PAMのステートメントが根底にあり、その上に文化政策も一部としてあるのでは。との話だった(藤原)

・舞台芸術の公共性について、掘り下げる機会が必要だと思った。横山さんから目の前の人、ということが提示されたが、ほかにも様々な観点から公共性について、語りうると思う。それを描いてみるプロセスを経て、ステートメントにまとめていけるといいのではないか。次回はそのような感じにしようと思う。第三回目の勉強会くらいでステートメントにまとめていくことができればよい。提言の順番としては、

1.舞台芸術の必要性・公共性

2.そのために必要な舞台芸術制作者のスキル

3.そのために必要な労働環境と人材育成システム

理想の制作者像:

技術的知識、芸術的価値に関する知識、社会における公共性に関する見識をあわせもち、総合的判断ができるというものを追求していくということでどうか。

 

8、宿題

アニュアルレポートなどからこれまでのON-PAMの活動記録から、舞台芸術の公共性に関する言説をコレクトする。

 

役割分担:ステートメント作成に参考になる言説をピックアップしてみよう

アニュアルレポート(2014)→崎田

アニュアルレポート(2013)→奥野

3年目のアニュアルレポートの原稿→塚口

芸団協、メセ協の提言→藤原

美術分野での→西山