【レポート】1/15 第4回テーマ委員会

2018.2.9

2016年度、ON-PAMでは政策提言を中心的な課題と位置づけて活動を行ってきました。
テーマ委員会でも「ON-PAMから何を提言するのか? どうやって提言するのか? なぜ、提言するのか? 」という年間テーマを掲げて議論を行ったほか、政策提言調査室では勉強会を計4回実施し、ON-PAM独自のステートメント作成を目指しました。
今回の第4回テーマ委員会は、一連の活動のまとめを行う場として開催し、特にON-PAMという団体がどのように意見表明を行うのか、そのために何が必要なのか、ということに焦点を当てました。
※以下に記す意見等は、当日の議論を要約したもので、発言すべてを網羅してはいません。ご了承下さい。

2016年度 第4回テーマ員会
日時:2017年1月15日(日)13時~16時
会場:Next(有限会社ネビュラエクストラサポート)2Fミーティングルーム
参加者数:13人(内、スカイプ参加1人)

内容:
・テーマ委員会の活動について(2015年度~2016年度)
・政策提言調査室からの報告
・ON-PAMにおける団体の意思決定とは?~いくつかの事例・提案を通して考える
・団体としての意思決定、提言に必要なことは?
・今後に向けて

■まず、2013年2月のON-PAM設立以降、政策提言をどのように位置づけ、どういった活動を行ってきたかを振り返りました。
・設立趣意書の「目的」で、「文化政策などへの提案・提言~を行う」と謳う。(現在は、定款第3条にて同じ内容の文章が法人の目的として記されている。)
・設立前の3カ年計画(2012~2014年)では、2014年に行なうべきこととして、「パブリックコメント等の発表」があげられている
・2013年度と2014年度の文化政策委員会では、政策提言を念頭に置いた講演、勉強会などが行われた
・2015年度から三つの委員会(国際交流委員会、地域協働委員会、文化政策委員会)を統合。新たに設けられたテーマ委員会では、「『あたらしい制作者』像を考える」という年間テーマを掲げ、計4回の委員会を開催した。

■2015年度のテーマを提案した相馬千秋さんに、テーマに込められた意図などを振り返ってもらいました。
・制作者の雇用・労働環境の問題が火急の課題であると考え、2014年度の文化政策委員会で取り上げた。また、その課題を通して、制作者の社会の中での立ち位置を検証する必要があると考えた。
・制作者の労働環境、そしてキャリア形成の問題に対する関心は高く、それを専門的にやっていくExplatという組織も立ち上がった。
・一方ON-PAMでは、政策提言を行って行くにあたり、主体となる我々は何者か、というより根源的な問いかけを行う必要があると思い、「『あたらしい制作者』像を考える」というテーマを提案した。
・その出発点を考えるという意味で、制作者とアーティストの関係を考えるということを行った。
・また、これまで歴史的にいなかった「フリーランスの制作者」についても、言語レベルでとらえ直す必要があると考えた。

■続いて、2016年度のテーマ委員会のテーマ「ON-PAMから何を提言するのか? どうやって提言するのか? なぜ、提言するのか? 」と活動内容について、私(齋藤啓)より説明を行いました。
・政策提言へ向けた具体的なアクションと並行して、政策提言自体の意味を問うことで、ON-PAMというネットワークの意義について考え、そして社会全体へと目を向けていくことが重要と考えた。
・2016年中のテーマ委員会開催は、次の通り。
– 第1回:4月24日(東京)→ 年間テーマ決定
– 第2回:7月24日(神戸)→ 企業メセナ協議会の事例を学ぶ
– 第3回:11月12日(京都)→ 「舞台芸術それ自体が持つ価値や公共性」(政策提言室
の第3回勉強会と合同開催)

■一方、政策提言調査室では定期的な勉強会をスタートさせ、2016年中に計4回実施しました。その活動と理念について、奥野将徳さんより報告をしてもらいました。
・勉強会は以下の通り実施した。
– 第1回:8月28日(東京)
– 第2回:9月25日(東京)
– 第3回:11月12日(京都)
– 第4回:12月18日(名古屋)
・第2回テーマ委員会(7月24日開催)の中で、企業メセナ協議会の政策提言活動では定期的に研究会を行っていたという話を聞き、勉強会を立ち上げた。日々集まって話し合うことの必要性があると考え、毎日は難しいが、8月以降月1回くらいのペースで開催している。
・政策提言には「陳情型・リアクション型」と「ビジョン型」があると思うが、特に勉強会では、どういう未来を描くか、どういう社会目指すかを提言する「ビジョン型」を想定し、まずは、自分たちは何者なのか、何を主張したいのかということを表すON-PAMのステートメント作りから始めている。今年度中にステートメントを言葉にすることを目指している。
・誰でも参加でき、議論できることがON-PAMの魅力だと考えるので、勉強会も誰でも参加できる場にしたいと考えた。
・議論の積み重ねが重要だと考えている。
・第1回の勉強会では、制作者の専門職化が話題になった。特に、公共体の中で職能にしていくために専門職化が必要だという認識があることが発見だった。
・それぞれの立ち位置から自由にステートメントを出せないだろうか。
・東海地域で初めて行われた委員会(企画委員会)と同時開催で、第4回の勉強会を
実施した。その中で、人に対してお金が出ないという声があった。

■ここから本格的な議論に入り、まずはON-PAMにおける団体としての意見表明について、いくつかの事例や提案を通して考えてみました。議論の導入として、横山義志さんから、会員(制作者)の利益を実現したり守ったりするためにON-PAMが団体として意思決定できる仕組みを作った方が良いのではないか、という提案を述べてもらいました。
・韓国の検閲問題に関するON-PAMメーリングリスト上でのやりとりは、ON-PAM会員や会員と直接に関係するアーティストなどが不利益を被った場合に、ON-PAMとしてどう行動するかということを考える良い予行演習になったと思う。
・作品の内容によって助成金が出ない、といった問題が発生した場合に、ON-PAMとして意見を表明する仕組みがなければ、それを作るだけで時間が取られてしまうのではないか。
・ネットワークとしてのON-PAMは、いろいろな立場で関わっている人がゆるくつながっている状態。その「弱いつながり」も尊重すべきだと思うが、実際には何か危機があったときのための「保険」として会費を払い続けている会員も多いのではないか。
・すでに潜在的な「危機」は存在していると思う。具体的には、公的資金への依存と従属が増大しているように思う。
・公共体とどう関わっていくか、制作者が公共体と対等に対話していくためには何が必要か、そして逆に公共体とは関わりなく行われる活動をどうしていくのか。
・舞台芸術制作者が劇場のプログラム(コンテンツ)に関われる仕組みを確保し、制作者が、劇場で行われる内容についても責任が持てるようにすることが重要。そのために、制作者の職能を確立させ、制作者が社会に対してどういう関わりを持っているかということを定義しておく。具体的な事例を積み重ねていくことが必要だと思う。
・(岸正人さんよりコメント)平成19年度までは、制作者の人件費は助成金で認められていなかった。

■韓国の検閲の問題(朴政権下でのブラックリストとそれに基づく助成金の審査)に関しては、11月中旬から2週間くらいの間、ON-PAM会員間でメールによる自発的な意見交換が行われました。その経緯と背景を丸岡ひろみさんより説明してもらい、団体として意思や意見を表明することについて意見を出し合いました。
・ON-PAMとして声明を出す場合に、どこに、誰に向けて出すのか。
・メール上でのやりとりの中で、韓国の舞台人を助けるには遅かろうという認識もあった。
・劇作家協会は、国内の問題や言論の自由に関わる問題について声明を出している。劇作家協会はどこまで(政治的なことを)語るべきか、アーティストは政治的な反応をするべきかという投げかけもあった。
・シンガポールでは、裸体をめぐる検閲の問題についてオン・ケンセン氏が異議を唱えている。
・ON-PAMとして意見表明をする体制を作ったときに、リアクションがしづらい問題には、どのように対応するのか。
・本当の有事には、声明を出す余裕はないのではないか。
・ON-PAM会員の有志や会員個人の連名で出すのはどうか。ただし、社会正義にもとるものは出さない。
・まず、声明を出す主体がON-PAMである必要があるのかという問題がある。
・ON-PAMの中で、声明を出すことや声明の内容に反対の人の存在をどう考えるか。
・声明を出すまでの経緯や声明文を明文化していくことは非常に大変だ。
・大筋で間違っていなければ意見表明をすべきだし、有志よりもひとつの団体として出した方が効力がある。
・ON-PAMに多様な人が集まる中で、意見をすりあわせる作業をどのようにスピード感をもって行うか。そのやり方をシステムとして考える必要がある。
・組織としてのステートメントをどうやって表すか。
・劇音協(劇場、音楽堂等連絡協議会)では、事業を担当していない事務局メンバーが取りまとめを行っている。(劇音協の関連資料を配布。)

■その後、ON-PAMが政策提言をするために必要な仕組みについて議論を進めていきました。
・ON-PAM内で議論の場をどこに設け、どのようにアウトプットしていくのか。
・(7月の第2回テーマ委員会でもお話しいただいた若林朋子さんより、若林さんが勤務されていた企業メセナ協議会の政策提言活動についてコメント)メセナ協議会では、1ヶ月から1ヶ月半ごとに研究部会を開催し、草案の取りまとめを行っていた。その提言案に対しての意見を幹事会で集め、理事会(余裕があれば総会にも)諮った。反対意見は必ずあり、内容だけでなく提言を行うことへの反対意見も。提言を目的としていない組織であれば、必ず反対意見は出ると思う。
・リアクション型の政策提言を行うのは、ON-PAM内に問題の当事者がいる場合だと思う。時間をかけられるのであれば、総会などの場を通して会員全員の意見を聞く。
・ビジョン型の政策提言では、ステートメントを発信し、定点観測的に更新していく。これは、十分な議論を重ねることができれば出せる。問題は、どこでその議論を行うのか。
・ビジョン型の提言は、パブリックコメントなどへの対応を通して、議論を鍛えることができる。
・利害が発生する場合、スピード感が生まれる。
・リアクション型の提言を、ON-PAMの有志の名前で出す可能性はあるか。
・政策提言にあたり、理事会が会員を代表するという考え方は控えた方が良いのでは。
・電子投票の仕組みができないだろうか。例えば、会員全員に投げかけて、半数の賛成があればON-PAMの意見として出す。
・意見集約のやり方によっては、少数派の意見を殺してしまうことになるかもしれない。
・出てきた反対意見も、議論形成に使えるようになるといい。
・多数決は必要か。
・地方自治体レベルで提言を出すことは、非常に意義あることではないか。会員に呼び掛け、各地方でのパブリックコメントの機会があれば知らせてもらうとよいと思う。
・政策提言の発表方法、発表相手について。まずは、ON-PAMのウェブサイトに掲載する。例えば、韓国での検閲の問題を取り上げるなら、大使館へ。リアクション型の提言の場合は文化庁、など。
・一人の会員が言い出せる環境、一人からでも提言をできる環境をどうやって作るか。
・勉強会をどう継続し、ステートメントをどのように更新していくか。

■提言をまとめて発表するための仕組みという「どうやって」について議論する中でも、現在の社会や舞台芸術の状況を鑑みて「なぜ」ON-PAMが提言をするのか、ON-PAMは「何を」を提言すべきかということに議論は及びました。
・政策提言を行う際には、ネットワークとしての実績が問われる。
・ON-PAMの活動は、広くあまねく一般に対してというよりも、表現に関わる人間、これから関わる人への影響があると思う。
・問題の当事者だと逆にリアクションできないこともあるので、その時にON-PAMの提言や提案が助けになるのでは。
・検閲の問題について、日本の場合は検閲というよりも自主規制であることが多い。
・ポピュリズムが力を持つ社会では、「それをやると、〜されると思うから」という形で自主規制が行われる。その背景に、顔の見えない市民の存在がある。
・(有事に備えて)あらかじめ理論武装をしておく必要がある。
・助成金の審査を介した規制がある。
・舞台芸術界が助成金について発信する仕組みが、まだできていないのではないか。それをON-PAMができたら。
・テーマだけではない部分でも規制があり、それが可視化されない。
・「作品の中の、ここを何とかしてくれ」という罠がある。
・火急の問題について発信する存在が必要。
・提言や声明を発する主語は何か。
・制作者やON-PAM自体のことについて発信していくことも大事だが、自分たちのことばかりにならないか。
・自分たちにとって自明のことを説明していく努力が必要ではないか。

■ON-PAMからの提言について考えるにあたり、制作者という存在やON-PAMというネットワークについて考えること、いわば自己定義が常に話題になってきました。その中のより具体的な議論として、舞台芸術における制作という仕事の専門職化があげられています。議論の後半では、この専門職化についても意見を交わしました。
・専門職として人材を扱っていないところが圧倒的に多い。
・臨時職として雇われていることも多い。
・国家資格に近い形での専門性を持った仕事として位置づけられないか。
・制作者の、普遍的に考えられる専門性とは何か。
・学芸員の場合、その専門性や職能は博物館法が根拠になっている。
・(制作という大きなくくりではなく)舞台芸術に求められる多様な専門性個々に対して名前を付けられるか。

今回の委員会では、ネットワーク組織であるON-PAMが団体として意見表明することの意味を中心に議論しましたが、当然ながらそれは手続きや方法論だけを話すのではなく(今回の委員会の議論では、提言をするために定款の改正は必要ないという前提を設けた)、ネットワークの意義や舞台芸術における制作という仕事の位置づけ、そして現在の日本社会の状況を考えることとなりました。また、これまで3年間のON-PAMの活動や議論が確実に反映されている感じましたし、そのことが重要だと思います。局面によってはスピード感が不可欠ですが、ていねいな議論の蓄積はON-PAMのような組織だからこそ可能なことではないでしょうか。今後は具体的な提言活動を行っていくことになりますが、結論を急がず議論を重ねていくこともぜひ継続していきたいと考えます。
(文責:齋藤啓)