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Next Producers Meeting ワークショップ『舞台芸術制作者という仕事を因数分解してみる』レポート

日時:9月22日(月)10:30-12:30
会場:芸術文化観光専門職大学 A101、102教室
スピーカー:
伊藤美笑子(舞台芸術制作者、公共ホール職員、ON-PAM理事)
水野恵美(precog プロデューサー、ON-PAM理事)


Next Producers Meetingが豊岡演劇祭と連携するのは今年で4年目となる。2025年度は『舞台芸術制作者という仕事を因数分解してみる』と題したワークショップを実施し、スピーカーとして伊藤美笑子と水野恵美が登壇した。両者ともに2025年度よりON-PAMの理事を務めている。ワークショップに先立ち、舞台芸術制作者として伊藤と水野がそれぞれの実践を語るトークセッションを行った。

伊藤は岐阜県在住で、公共ホールの職員として働いて今年で通算13年目となる。舞台芸術に関心を持ち始めたのは高校演劇部での活動がきっかけで、その後芸術系の学部のある大学に進学した。制作の仕事には、学内公演や劇場インターンを通じてふれるようになり、そこで興味をもったという。卒業後、三重県文化会館で働き始めた。同会館で伊藤は、演劇やクラシック、海外バレエ、オペラなど、様々なジャンルの公演を担当した。伊藤は「ここで学んだノウハウや接遇の精神は今も自身の仕事を支える基礎となっている」と話した。その後は滋賀県内の公共ホール、育休を経て、現在は岐阜県内の公共文化施設で働いている。

また、伊藤は制作のスキルを高めていきたい、劇場とは違う立場での制作をしてみたいという思いから、公共ホールの職員として働きつつ、2023年にネットワークチーム「テーテトニコ」を立ち上げた。東海圏で活躍する演劇・音楽分野のアーティストたちが集い、アートをコミュニケーションツールとしたワークショップを企画・運営している。さらにON-PAMでは会員提案企画の枠組みを活用し、地方で働く制作者の交流・ネットワーク構築を目的とした「おしゃべり会for地方制作者」を企画。これまで13回実施した。それらの活動内容についても紹介した。

劇場で働くことについて伊藤は「地域の人たちが、劇場を日常生活と地続きで利用しているのを見かけると、ささやかだがよろこびを感じる。事業企画を通じて豊かな出会いを届けていきたい」と話す。また今後のキャリアについて「しばらくは公共ホールという場所で働きつづけようと思っている。各活動を通じて制作者としての専門性を磨き、今後に活かしていきたい」と語った。

つづいて水野が自身の活動について紹介した。水野は、大学では映像身体学科を専攻しており、作品創作に励んでいた。その過程で企画全体のプロデュースに関わる“制作業務”に関心を持ったという。在学時より国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー(F/T)」 やTPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜/現・YPAM)のインターン、劇団「贅沢貧乏」の制作、precogの制作アシスタントを通じて経験を積み、やがてprecogの社員となった。現在は入社して10年弱であるという。

precogはアートプロジェクトの企画運営を行う制作会社で、公演・イベント制作のほかにも、情報保障・バリアフリーサポートや、スペース・プラットフォーム運営など、業務範囲は多岐にわたる。水野は入社当初、公演・ツアー準備や現場運営などプロダクションマネジメント業務が中心であったが、アーティストやスタッフとのコミュニケーションを重ねたり様々な土地の人と関わっていくうちに、プロデュース領域にも興味を持ち始めたという。現在は主に、演劇カンパニー・チェルフィッチュのプロデュースや、その主宰・岡田利規のマネジメントを担当し、企画や、予算・スケジュール管理、キャスティング・スタッフィングなどを行っている。制作の役割として「作品をどうつくり、どのように届けるか」を考える立場だと話した。また今後のキャリアについて水野は「今後のビジョンはまだはっきりと持てていないが、所属などに関係なく、ただただ作品創作に携わることをつづけていきたい」と語った。

両者が話し終え、次にワークショップが行われた。伊藤がファシリテーターを務めた。年齢もキャリアもさまざまな20名の参加者が4つのグループに分かれ、「舞台芸術制作者」という仕事を“因数分解”する。因数分解は3つのワークを通じて行われた。最初のステップは考えを書き出すこと。「制作者はなにをしている?なにを考えている?」という質問を軸に、参加者それぞれが考える〈制作者の仕事内容〉と〈制作者が大切にしている思考や行動〉を付箋に書き溜めていった。

〈仕事〉は黄色い付箋に、〈大切にしていること〉はピンク色の付箋に書き出した。〈仕事〉では「伝える」や「助成金を申請する」「資金調達を考える」などが挙げられ、〈大切にしていること〉では「作品の中身を説明できる」「あたり前をうたがう」「還元する」「楽しむ」などが挙げられた。どちらも具体的なものと抽象的なものがあり、“舞台芸術制作者”の輪郭が広い幅で浮かびあがった。

次に行ったのはマッピング。事務局が用意したアートと社会の相関図をもとにした。この図は中心に「アート」が据えられていて、それを囲むように「創作」「発表」「鑑賞者」「社会」と円が広がっている。参加者は、書き出した内容がそれらのどの位置で取り組むことができそうか考え、該当する場所に付箋を貼り出していった。最後に各グループの代表者が全体に対して、自グループのマッピングについて説明するとともに、チーム内の気づきを共有した。

A班の代表者は、「付箋を見渡して、契約書の手配や収支管理など、想像よりも制作者の業務量が多岐にわたることに気がついた。またそれをこなしていくために、人との関係づくりを大切にし、広い視野を持つことが必要だと思った」と語った。つづいてB班・C班の代表者は、貼り出した付箋についてそれぞれ「“社会”という一番外の枠に多く集まった」「“鑑賞者”と“社会”をまたがるものが多かった」と語り、制作者が行う、劇場や観客とのコミュニケーションに対する関心について言及した。

D班の代表者も同様に、アーティストと観客との間の関係づくりを担う、仲介者としての制作者の役割にふれたほか、“社会”の枠を“地域”という言葉にも置き換えて考えたと語り、創作に関わる社会や地域の事象について、それらの文脈を知り続けることの大切さも制作者の役割だと思うと指摘した。

気づきの共有を終え、他の参加者からも感想が述べられた。「 “チームが健康でいること”を“ケアする”など、ピンクと黄色、つまり〈大切にしていること〉と〈業務内容〉をどのように結びつけていけるのかを考えていきたい」と、ワークショップの内容についてふれる声のほか、「交流の機会がうれしかった」など、本企画自体に関する感想も寄せられた。

伊藤は「このワークショップは答えを見つける場所ではないが、自身の活動を言語化し進む方向を見つけるきっかけになっていればうれしい」とフィードバックを行い、前半でスピーカーを務めた水野も「参加した皆さんから想像以上の言葉がでてきてよかったが、これら全てを1人の制作者が担うのは大変。セルフマネジメントできるようなバランス感覚をともに養っていきたい」と語り、本イベントは締めくくられた。

執筆:臼田菜南

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