日時:2025年12月9日(木)16:00-16:40
会場:男女共同参画センター横浜南フォーラム南太田
登壇者:Jin Yim(Creative Producer)、Muhammad Abe (Independent Producer)、武田知也(一般社団法人ベンチ代表理事、ON-PAM理事長)
モデレーター:小野江麻里子(ON-PAM事務局長)
プロデューサーやアートマネージャーといった舞台芸術制作者が抱える課題は、所属、働き方、拠点、年代などによって多岐に広がる。それぞれが抱える小さな声や気持ちを持ちよることのできる、オープンでゆるやかなネットワークについて、舞台芸術プロデューサーのネットワークに取り組むゲストをアジア各国から招き、柔軟で多様な働き方や創作環境を支える仕組みについてのトークセッションを開催した。
Muhammad Abeは、まず自身が関わるインドネシア・ドラマリーディング・フェスティバル(IDRF)について紹介。IDRFは2010年にスタートしたフェスティバルで、2009年に東京で開催されたアジア劇作家会議をきっかけに生まれたプラットフォームであると説明した。IDRFの創設者たちは、大規模な制度に頼るのではなく、小さなアーティスト主導の機関として協働しながら、国際的なネットワークを活用して作品の翻訳や上演の機会を作ってきたという。
「お金はないが友達はいる」とAbeが述べるように、資金は乏しいが友人や地域の協力によって成り立ってきたもので、信頼関係こそが活動を支える基盤であると語った。また、近年はインドネシア政府からのアートコミュニティに対する援助が増えているものの、政府からの資金のみに頼らず別の資金を獲得する必要があると述べ、そのためにも多様な都市や人々とつながる国際的ネットワークを広げることが重要であると強調した。
Jin Yimは、自身がインディペンデントなプロデューサーとして担う役割は多岐にわたり、制作、キュレーション、国際的な調整、資金調達など複数の顔を持つ存在であると語った。その一方で、インディペンデントな立場で働くことは孤独であり、相談相手が得にくい現実もあるという。APP(Asian Producers’ Platform/アジア各地のプロデューサーがボランティアベースで集うネットワーク)に参加し、年間事業であるキャンプを通じて互いを支え合うコミュニティを形成している。
そこでは仕事の話だけでなく生活や休暇についても語り合い、思いやりのある関係を築くことができるとした。さらに国際交流は想像力を広げ、友人を友人へ紹介する「マッチメイキング」の役割を果たすと語り、「友情を資源として育てる」可能性を提示した。プロデューサーは舞台裏にいるだけでなく、自ら言葉を発し対話を生み出す存在であるべきだという姿勢も示された。
武田は、自身が理事長を務めるON-PAMが、組織を代表するのではなく、組織を超えた個人の集まりとして始まったネットワークであると述べた。パンデミックや震災といった危機の中でネットワークは安全網として機能し、個人を支える役割を果たしてきた。さらに今後の課題として、若い世代への継承や世代間の平等な対話をどのように実現するかを挙げた。
ON-PAM以外の自身の取り組みとして、アートマネージャーのコレクティブ「ベンチ」や、その活動の中で実施しているメンターシッププログラム「バッテリー」を紹介し、次世代のプロデューサー、アートマネージャーを孤立させず、資源や経験を共有しながら共に成長することが重要であると語った。また舞台芸術の現場ではそもそもヒエラルキーが生まれやすく、それを乗り越えるためにもネットワークが必要であるとの考えを示した。
3名それぞれの活動紹介後、クロストークに移り、自身のネットワークをどのように若い世代に継承していくか、ということについて議論が展開した。Yimは、自身と共に活動する若い世代のプロデューサーたちが活動基盤にできるよう、プロデューサー・コレクティブ「Project DARI」を設立した。ただの協働相手としてだけではなく、自身の知見や経験について分け与え、逆に若い世代からも何かを受け取って共に成長できるコミュニティを目指している。
Abeは、実際にトーク会場にいる自身の同僚たちの紹介も交えながら、インドネシアプロデューサー協会(JPPI)やKelolaといった、インドネシアでネットワーキングに注力している組織の取り組みについて述べた。国際的なネットワークの拡大により、脱植民地化や地域固有の課題を共有するための連携が可能になってきた一方で、国際的視点に偏りすぎずローカルな文脈とのバランスを取る必要があるという投げかけもあった。武田は、「お金はないが友達はいる」というAbeの発言を引用し、ネットワークがセーフティーネットとして機能し得ることについて語り、ネットワークが資金だけではなく、空間、言葉、時間、対話といった要素を共有できる可能性もあると述べた。
最後に観客から、どのような若い世代と協働したいかという問いが投げかけられた。Yimは若い世代全員を支援することはできないからこそ、インディペンデントなプロデューサーとして活動している若手女性に対象を絞って支援を行っていると述べた。Abeは、既にパフォーミングアーツに興味関心を持つ若者たちに向けて、更にその興味を増幅させるような活動をしていきたいと語った。武田は、どんな若者がいいか、といった判断を保留する、どんな人を望むか/望まないか、といった能力主義的な視点をあえて取らないことも芸術の場のあり方を考えた時には重要ではないかとの考えを示し、本ラウンドテーブルは締めくくられた。
執筆:﨑山貴文
