ON-PAM シンポジウム「劇団・カンパニーの未来像と支援制度vol.1」
日時:2016年3月20日 13:30~15:30
場所:元・立誠小学校(京都)にて
登壇者
・清水翼(維新派 制作/株式会社カンカラ社)
・中村茜(株式会社precog 代表取締役/プロデューサー)
・鳴海康平(第七劇場 代表、津あけぼの座 芸術監督)
・田嶋結菜(地点 制作/合同会社地点 )※Skype 参加
司会
・藤原顕太(Explat 副理事長、有限会社ネビュラエクストラサポート)
1. 開催の経緯
支援団体においては、芸術文化振興基金にプログラム・ディレクター、オフィサーが配置され早5年が経とうとしており、地域版アーツカウンシル設立へ向けた動きは全国的に広がりつつある。一方、劇団やカンパニーは、1960年代に始まった小劇場演劇シーンにおいて、1970年生まれの主宰者を指して第5世代と呼ばれる新たな世代が台頭しており、その運営手法も多様化している。このような状況を踏まえ、今後多様な芸術団体の存在を前提とした上で、それぞれの団体がより発展的な活動を展開するには何が必要なのかを探るということが本開催の趣旨である。
本会は、舞台芸術のマネジメントに携わる人々が個人として加入・参加するネットワークであるON-PAMと、舞台芸術のマネジメントに関わる人材の雇用労働環境整備・人材育成を目的としたNPO法人Explatの共同企画として行われた。個々の作品制作のみならず、雇用も含めた劇団・カンパニーの経営とも大きく関わる課題として本テーマを捉えての合同開催であり、本会の内容をもとに、さらなる新たなシンポジウムの開催等の展開を予定し、タイトルに「vol.1」を入れた。舞台芸術制作者の職能(というには幅広い言葉だが)とは、社会と芸術を繋ぐという言葉で説明されることが多いが、その実務に関わる者として現在議論すべき点は、この両者に対し、どのような立場・態度でこれを繋ぐかということだろう。
今回の登壇者もその立場はそれぞれ異なるが、共通している重要な点としてあえて明言するならば、「質の高い芸術作品を創造することを目的としたプロの集団として、経済的に自立し、かつ社会に対して自律的な態度を保ち続けようとする」点である。一方、芸術団体に対し支援を行う団体は、その設立目的に合わせた振興の施策として助成を行っている。このため、両者のミッションの違いを意識化した上で、連携して達成すべき目標と、そのための最適な支援の手法を見出すというのが、本シンポジウムの目的となる。
この点では事前に具体的な提示はしなかったものの、結果として「より質の高い公演をどのように作るか」「より多くの観客に見てもらうためにはどのような工夫をすべきか」という点が、シンポジウム当日も議論の前提となったことで、有効な議論がされたと感じられた。第1回で芸術団体側の現状と課題を抽出したのち、第2回で支援側を招き、抽出された課題点の改善方法を検討するという流れを当初より検討してきた。なお、本シンポジウムの議論で最も具体的に想定した助成元は、芸術文化振興基金、並びにトップレベルの舞台芸術創造事業である。
2. シンポジウムで挙がった主な項目/意見
登壇した団体が、自団体の活動目的を紹介するとともに、現在の支援制度でその目的達成にそぐわない要素を挙げた上で、会場との意見交換を行った。具体的な助成内容についての意見が出る一方、その根本となる舞台芸術団体の経営に関するコメントも多い。
以下、【●→具体的助成内容 ◯→団体経営全般】に大きく分けて表記した。
●費目の問題について
・食費・宿泊費…使途制限によって、野外公演への対応が難しい。
・打ち合わせの経費…使途制限あり。
・自分たちが管理運営する場所の会場使用料、稽古場代…事業助成では認められない。
・海外ツアーでは、途中でスケジュールが空く期間ができて一時帰国をしたくても、経費として認められない。
●頻度・期間・時期の問題について
・文化庁「トップレベル~」申請のための実績要件(年3回以上の公演)を満たさない活動を行うトップレベルの団体(例:年1回の大規模な野外公演)が対象とならない。また、同一公演の全国ツアーを組んでも、1公演にしか認められない。
・1年から2年の創作期間をかけて新しい作品を作る場合でも、単年助成のため1年分しか申請できない。
・採択可否決定時期が遅く、4~5月に公演を打つリスクが高い。
●赤字補填の問題について
・事業助成での赤字補填は「主催者が、他の事業から補填をする」という形でないと捻出できない。他に収益事業を持っているという前提ではないにも関わらず、この考え方が導入されている。
・劇団員制度をとっている劇団の活動に対し自己負担金を前提とした制度を前提とすることは、劇団に所属する俳優に適切な報酬が支払われないという問題を招いているのではないだろうか。
●採択額と比率の問題について
・採択比を上げようとすると個々の採択額が下がることになる。仮に申請側が最低限の必要経費として申請をしたとしても、満額の採択がされないことで、舞台芸術団体側が人件費等を抑圧せざるを得なくなり、本来支払われるべき適切な報酬額より少ない額での労働が横行する。
・また、申請側と採択側での信頼関係が生まれず、採択額が下がることまで見越した申請額の水増し等、不適切な会計の温床となる。
●リスクマネジメントの問題について
・大規模災害やテロ騒乱等、非常時における柔軟な対応がどこまで可能かという基本的なコンセンサスが足らず、決裁権をもった相談先とのコンタクトがとれない。
●プロセスの問題
支援側が活動の事後評価を行うこと、採択や事後評価の透明性をあげることが必要ではないだろうか。
◯支援制度設計の思想
・メインストリームとして当初に想定されていた芸術表現形式・団体の活動形態も、時代により変化していく。その変化に支援制度も柔軟に合わせていかなくてはならないだろう。
・国際共同制作と、これまでの日本の支援制度との考え方の違いは大きく、国内でシステムとして定着していない。
・税金を投入される活動に、誰がどこで説明責任をとるのかということが最終的に問われるが、複数の方法論があるだろう。(劇場にお金をまとめて渡し再分配をする、劇場を持たないがアーティストたちをマネジメントできる能力を持っている団体に渡して再配分する、アーティストの年間の生活・創造活動に対して支援していく)
・助成金に頼らなくてもいいような状況を作る、そのための初期投資としての助成という考え方もあるのでは。
◯組織形態の問題
・作品の質と組織形態は必ずしも一致しない。舞台芸術団体の活動は継続を前提とするとは限らない。一方、法人は継続的な活動を前提として組織される。
・長期的継続を前提とした舞台芸術団体・ユニットばかりではなく、そのような集団は法人化を目指すべきではない。しかし、それだけでは社会的信用が欠け、安定的なファンドレーズは難しい。このため注目されるのが、複数の団体・アーティストのマネジメントを行う「プロダクションハウス」。
・プロダクションハウスは経営資源の獲得や複数団体での知識活用などの強みも持つが、このような形態に対して助成制度が十分に対応しているとは言い難い。
◯組織と人の問題
・1人の制作者が全ての経営的リスクを押し付けられ、その制作者一人が倒れたら劇団がつぶれるという状態は全く健全ではない。そのようなリスクを避ける経営基盤を構築するべきだ。
・非営利組織では、ボランタリーベースでの活動など、本来的な経費より実費が大幅に抑えられている費目が多数存在する。このような費目を本来経費として可視化する「インカインド」という考え方がある。本来の事業経費を可視化するためなどに活用されると望ましい。
◯その他
・財源が限られている中で、支援制度のあるべき規模については、これ以上議論しても現実的ではない。それよりは現在の公的助成の流れをいかに変えることで、色々な人が舞台芸術を観る可能性を増やせるかということにコミットした方が合理的ではないだろうか。
・既に存在する助成の枠について今回のシンポジウムでは扱っているが、そもそも経営の問題として考えると、財源を複数持つこと、税制優遇制度等で民間から資金をどう入れるかということ、舞台芸術業界が今後お金の流れをどのように創造できるかということなども議論されるべきだろう。
3. 政策提言のためのヒアリング
今回のシンポジウムを記録する上で、単なる実施履歴に止めず、今後の提言に向けていかなるカスタマイズを行うべきかということについて、稲村太郎氏(ニッセイ基礎研究所、セゾン文化財団)にヒアリングを行い、以下の意見を得た。
【ON-PAMにとっての政策提言とは?】
・ON-PAMは政策提言をすることがミッションではないだろう。個々の制作者が抱えている課題解決の先にどのようなビジョンを見据えているかを提示することが不可欠。政策提言は、ミッションを達成するための手段。
・ネットワークとして常に活動を更新していくアイデンティティは持ちつつ、一方で、発信する地点として、何かしらかのポジションを持たないと発言はしづらいだろう。
【「どこで/誰に/なにを/どうするか」を整理する】
・基本的な目的として、ON-PAMで話された問題をどこに向けてどのように影響力をもたせようとしているのか、そのためになぜそのアクションをするかを整理する必要がある。
・「レポートを作るには、どこに影響力を持たせるのか?」「レポート自体が届けたい人の影響力にもたせるリソースとなっているのか?」ということを考えていくと良いのでは。
【誰に届けるか】
・政策に影響を与えるオピニオンリーダーを整理しておく。例えば、文化庁文化審議会文化政策部会、東京芸術文化評議会のメンバー。政治家・政党。そういう人たちに話を聞いてもらい、自分たちのことを代弁してもらえるようにする。
【どのような手段で届けるか】
・アドボカシー、提言、ロビーイング、キャンペーンなど、手段は複数ある。当然、シンポジウムもアクションの一つ。一般の人に向けるならばキャンペーンとなる。
・政治家に届けるロビーイングは、シャープな課題・問題の方が有効(ex 障害系の話に興味がある公明党)。分野全体の全体的・総合的な課題ほど専門的な知見をもたないと危険なため、一声では決められなくなる。また、政党同士は互いに異なる政策を立てるため、特定の政党に寄ると、他のところに寄れなくなる。もしこれを避けようとするならば、キャンペーンに近い活動だが、与党と野党の両方で対応する(影の内閣など)ポストの人を呼んでシンポジウムを行うなどの方法もある。
・アドボカシーは政策を作る官僚の人や影響力のある専門家(ex 吉本光宏さんなど)に向けた手法として有効。
【届けるためにはどのような加工が必要か】
・「本当に変えたほうがいい」という論証ができるだけの内容になっているか。提案の形になっていなければならないし、伝えるような言葉になっていなければならない。たとえばシンポジウムのレポートを作るとしても、そこから形を変えていき、相手に投げる玉の形を作っていく。
・むしろ提案内容をシンプルにまとめた上で、その内容に説得力を持たせるための、根拠となるような付属品が必要と考えるべき。アンケートや統計のグラフなど。その付属品の一つがレポートかもしれない。
・議論の文字起こしをしたレポートは、いわばローデータ。これを最終的に、読みたくなるような構造をもった提言に加工しなければならない。ローマテリアルを分析加工し、必要なデータを集めようとすると、発見が生まれる。こういう視点からみたらこう思える、という解釈をする時期が出てくるだろう。分析をしっかり行い、誰も知らなかった情報がデータ化・定量化されると相手に見えてくるようになる。
・提案内容は、まずそれに関心を持ってもらい、次にローデータの資料を読みたくなるような内容であることが必要。
【情報のサンプリングについて】
・例えばシンポジウムで助成制度のある部分に課題がある、という指摘が出たとしても、その意見をバックアップしてこないといけない。
・リサーチする対象が同じだとしても、データに対する解釈が変わるため、誰がリサーチャーをやるかで異なる結果が出る。
・データをとる際にも薄さ、濃さがある。母数が少ないと弱い。標本調査(サンプル調査)をするとしても、たとえば全体のパイの10%だと、「それでは全体が見えない」となることもあるだろう。また指標がないと、どのくらいかということが見えない。
・ON-PAMにとって、仮にコアになっている人が100名だとすると、そこから周縁に広げ、2~300にしていくイメージ。ON-PAM 入ろうかどうかを迷っている人たちをどう巻き込み、どう吸い上げていくかがとても重要だろう。入会したが今はON-PAMを離れた人だったり、業界を離れた人もリサーチ的にはとても重要なサンプル。
【リサーチの手法】
・帰納法/演繹法のどちらをとるかでアプローチが変わる。仮説を持って検証するのか、仮説を持たずに検証するのか(そもそもの問題がなんなのか)。
・統計化するのに向いているのは帰納法に基づいたアンケート。
・演繹法で一般化されていない概念を見つけたい時には、アンケートでは取りづらい。問題意識を探るには、人に話を聞いていく作業となる。
・一般化されていること、されていないことがある。問おうとしていることが一般化されているのかどうかや、オープンクエスチョンを入れるといった配慮は論証のために必要。
・常に舞台制作者を「職業」として捉えなければならないということはなく、その人の「アイデンティティ」と考えることもできるだろう。
・もしも多様な方向性の人が存在することを見せるのならば、マッピングをすると良いのでは。理想的なマッピングは、一度要素を分解したものを重ね合わせるという形では。どういう職能、立ち位置をもっているかのセグメント分けをした上で、一つ一つがどう重なっていくかを見せてキャラクターを立たせる。(女性誌が結構こういうのは得意な気がする。複合要素があってキャラが立っていて、重なっている職能の濃淡が分かるようになっている。)
【根本に立ちかえる】
・理想論かもしれないが、公的支援についてコミットメントするならば、芸術団体への公的支援がそもそも必要なのかどうかというところから考えてもいいのでは。結論ありきではなくすることで、いまは現実離れしたように思えることが最終的なビジョンとして出せることもある。例えば新たなビジネスモデル自体の提案など。世代でビジネスモデルは違うし、愛情の対象も違う。
【ON-PAMの戦略】
・いまはエビデンスベースのポリシー作りをする時期だろう。その活動をオープンな姿勢でしていくことで、関わりを持ってもらう機会にもなるのでは。
・見通しの中で、これは10 年後にやろう、これを5 年後にやろうという戦術に落とし込んでいく。
・この機にON-PAM の中でリサーチスキルをもった人を育て、シンクタンクとしての機能を持っていくのも考えうるのではないだろうか。
【支援側に対するアクションを考える】
・例えば芸文振の制度が、法人格を取得して制作者が所属する劇団への支援を前提としたビジネスモデルと捉えるならば、このビジネスモデルの次はどのような展望を描こうとしているのかをまずは聞く。そこにON-PAM での議論とのギャップがあれば、その部分を掘り起こしていく。聞きに行くのはタダなので、相談に行くというくらいのスタイルで行ってはどうか?過去にアーツカウンシルの人たちが登壇したシンポジウム(=初年度の文化政策委員会)をしているならばなおさら。ON-PAM が組織として、支援側と継続的に対話できる手段もそれを通じて確保していける。
・その際に、シンポジウムで起こった議論を、例えばA3用紙1枚か2枚に整理しておくというのが良いのでは。
4. ON-PAMから何を提言するのか?どうやって提言するのか?なぜ、提言するのか?
【なぜ、ON-PAMから提言するのか】
文化政策への提言は、誰にとって必要なのか。ON-PAMに既に所属しているメンバーが権利を獲得していく当事者運動なのか、それとも「次世代に良いレガシーを渡し続けていく」という運動なのか。ON-PAMの活動で私たちが積み上げてきたのは、同じ「制作者」という名称でもそのミッション・職務が大きく違うメンバーがいることである。「これからの自分の仕事のために文化政策への提言が必要だ」と意識的に考えている舞台芸術制作者は、その総数に比べれば、恐らく一部だろう。
だがその中でも、潜在的には提言により文化政策が変わることでベネフィットが生まれる人もいれば、生まれない人もいる。文化政策を意識的に捉えている人もいれば、そうでない人もいる。まずはそのようなマトリクスを頭の中に描いておきたい。しかし提言に現状でどのように考えているかに関わらず、所属する/経営する団体を持つ制作者であれば、団体経営の方向性(より具体的に言うと、こう在りたいと描いている団体としての将来ビジョンと、その達成のためのファンドレージングの方法)については考えているだろう。であればその内容について分析し、いくつかの方向性に分類するという作業が最初に必要ではないだろうか。
【何を提言するのか】
これまでにON-PAMが実施してきたミーティングから、提言すべき要素を抽出する作業が最初に必要だろう。議論の積み重ねとして、ON-PAMが何を持っているのかを改めて明らかにすべきだ。そのために、過去のアニュアルレポート等を活用し、掘り起こしを行う作業が必要となるだろう。以前に鈴木忠志氏から発言のあった、「行政サービスと文化政策の違い」に関しては提言のときに前提とすべきことだろう。我々の提言は、行政による文化領域へのサービス拡大を願う「陳情型」のものではなく、芸術を自立した存在として成立させた上で、適切な支援によりその社会的効果の最大化を図るための「提案型」のものであるべきだ。
【どうやって提言するのか】
まずはエビデンスベースの情報集めをするべきだろう。会員をはじめとする関係者に向け、裏付けとなるリサーチを行う。例えば今回のシンポジウム内容を受けての項目であれば、助成の課題に感じている部分について、シンポジウム登壇者の意見と一致する部分・しない部分を聞くとともに、自団体の経営方針についての設問を設けるといった具合ではないだろうか。
その上で、提案の方向性は2つに分けられる。
①全員に共通する課題を抽出し、共通意見を出す
②活動形態によっていくつかのセグメントに分類し、個々の現状を可視化する
個人的には「リアクション型」は①、「ビジョン型」は②の形態が主に連想される。
会員の多様性を重視するネットワークであるON-PAM では、基本的に①の提案をすることは相当な困難が伴うだろう。むしろ、多彩な会員のリアルな姿を図式化・視覚化した上で、それぞれの適切な支援について提案をする②の形であれば、最も具体化しやすいのではないだろうか。
5. 今後「劇団・カンパニーの未来像と支援制度」を扱っていくアクション案
他の室の活動との連携を前提とした上で、以下の活動を実施したい。
①本レポート内容のインフォグラフィック化(A4 1枚程度のサイズに)
②会員を中心とした活動実態のリサーチ(4で上述の通り)
③リサーチ結果を基にした、支援団体のPO等との意見交換
④支援団体を集めたシンポジウムの実施
⑤シンポジウム結果の普及啓発
以上