【レポート】第4回文化政策委員会『文化政策の提言を制作実感から考える~多様なアウトプットの実践へ』」@Nextミーティングルーム20141219

2015.1.30

2014年12月19日、東京都江東区にあるNextミーティングルームにて、舞台芸術制作者オープンネットワーク[ON-PAM]の「第4回文化政策委員会」が開催されました。

下記のとおり活動報告をいたします。

今回の目的は、これまでの2年間の活動を踏まえて「ON-PAM((オンパム)の提言を作成してみること」。文化芸術推進フォーラムの政策提言などを参考にして、第2回、第3回の文化政策委員会での議論によって抽出されてきた「雇用・労働」をテーマに提言作成を行うという委員長の提案をもとに意見交換を始めました。一方で、参加者からはその前に「ON-PAMという存在がどういう存在なのか、多様な参加者、職能の集まりであるからこそ、その立脚点を明確にしていくべきであり、その先にその団体の在り方から提言するべき内容が生まれるのではないか」などの意見がありました。

文化芸術推進フォーラム

文化芸術推進フォーラムの提言

それを受けて、当日は提言作成の前段階となるステートメント、そのベースと成りうるON-PAMという団体の特徴や存在意義を、それぞれが言葉にして、意見交換を行う場としてディスカッションを行いました。2つのグループに分かれて席替えも挟みつつディスカッションを行い、結果として「提言の作成」には至らなかったものの、提言の基になる“舞台芸術制作者オープンネットーワーク(ON-PAM)”とは何か、について、いくつもの重要な論点やキーワードが出てきました。まずは文化政策委員会の委員長である伊藤達哉さんより、これまでの活動のまとめと、今回の進め方について提案がありました。

伊藤:
ON-PAM文化政策委員会の1年目は第一線で活躍されているゲストの方々をお呼びした勉強の年だった。2年目のテーマはアドボカシー。1回目で「ON-PAM文化政策委員会はアウトプットをしていく」と確認し、2回目は「世界のハブとは?」というテーマで文化庁の方々をお呼びした。3回目は我々の労働環境の過去と現在を学び、望むべき将来像を描いた。4回目となる今日は「提言」を具体的に形にすること、又は「そもそも提言とは何か」を話し合うことも含めて、皆さんと議論したい。

文化芸術についての提言には文化芸術推進フォーラムのものがあり、非の打ち所がない。その中にある「文化芸術立国の実現に向けて」の1と2は、ON-PAMの提言としてもいいぐらいだと思う。文化庁からの書面ヒアリングに対しては先日、ON-PAM理事から返答をした。果たしてON-PAMはどうすべきか。誰に、何を、届けるのが有効か。

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会員1:
我々の仕事は国民の10年後の幸せにつながる芸術活動であるべき。演劇をもっと身近にするには、演劇の世界以外に糸口があるのでは。我々が望む姿は、言葉としてはすでに存在している(例えば文化芸術推進フォーラムの提言)。現場の我々が地に足を付けて何を言えるか。敢えて極端なことを言うべきではないか。提言はスペシャルであるべき。

会員2:
ON-PAMという組織の可視化ために、機会を見つけて片っ端からパブリック・コメント(以下、パブコメ)を提出してはどうか。パブコメは色んなレベルで存在し、国だけでなく区でもやっている。ON-PAM自体の認知を高めるためでもあり、会員の訓練にもなる。とにかく出していくことが必要。いちいち集合するのは難しいだろうから、ネット環境を生かした良い方法があれば。日本各地の会員が少人数のグループを組織して、各地域のパブコメを出すのもいいのでは。

会員3:
色んなレベルの提言がある。どのレベルでやるのかのコンセンサスを取る必要がある。

会員4:
提言の前に、「そもそもON-PAMとは何か」というステートメントを確立する必要がある。文化芸術推進フォーラムの政策提言は「団体」の集合知であり、「現場の個人」の集まりであるON-PAMの提言とは異なるだろう。自分たちが何に立脚して提言できるのか。身の丈に合ったことを言う方がリアリティーも説得力もある。何を目指すのかが決まったら、提言も作れる。アートNPOフォーラムは設立当初にミッション・ステートメントを出した。ミッション・ステートメントとは「われわれはどこから来て、何者で、どこへ行くのか」をあらわす言葉。NPO法人なら通常、2~3行にまとめるもの。実はON-PAM(Open Network for Performing Arts Management)という名前にあらわれているはず。「オープン」「ネットワーク」「舞台芸術」「制作者」と単語のひとつひとつの意味を丁寧に掘り下げれば、ミッション・ステートメントが書ける。私たちはどういうことを目指しているのかを、強い言葉であらわしたい。我々は何者なのかを他者に納得させられる言葉にする。未来像を語れば、それが提言になる。今は実態しか表現できていない。

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●利益代表をしない
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会員5:
ON-PAMは「利益代表ではない」ということを言葉で示したい。ON-PAMの提言としてもいいぐらいだと思う。ON-PAM国際交流委員会には海外の人もいる。業界の外の人ですら参加できている組織である。成果を享受できる人の範囲が広い。そして現場に近い人たちの声であること。画期的なことになりうると思う。

会員4:
「利益代表をしない」とは何なのかを具体化したい。「使い勝手がいいように制度を変えたい」だけで、陳情をしに来る業界団体と何が違うのか。ともに公共を実現していくというスタンスで提案するスキルが必要。「ON-PAMとともに何かを考えると、こういうメリットがある」と伝えたい。

会員6:
アドボカシーをする際は、「所属している人の利益」を求めがち。我々は会員となっていない制作者も視野に入れた・・・「共益ではなく公益」を目指す。

会員4:
たとえば既存の組織だと通常、加盟団体の利益を追求する。でもON-PAMは違う。職能も様々。俳優などアーティストのための団体とも違う。

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●ON-PAMは個人のオープンな集まり/ON-PAMの利点、強み、アイデンティティー
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会員4:
ON-PAMとして、個人であることの強みを生かしていくのが非常に大事。組織では目指せないことがON-PAMではできる。個人の集まりであることは同時代的。会員が150人もいるのは、皆、ニーズを感じているから。今後、入ってくれる若い人たちのためにも、言葉のレベルでON-PAMとは何かを表現したい。たとえば「アート」という言葉は拡散しすぎて、今や何も言い表せていない。社会に問いを発するのはあらゆるところで行われているのだから、ON-PAMの特殊性を謳い、守備範囲はぼやかさない方がいい。拡散していく時代だからこそ特化する必要性がある。

会員3:
ON-PAMのアイデンティティーは個人のオープンな集まりであること。ON-PAMの目指すべき姿、利点、アイデンティティーを洗い出して、個人の集まりでしかできない、個人の集まりならではのことを、提言する。ON-PAMは利害を超えて集まっている個人の集合体だから、経験と状況をシェアできる。組織だとできない。立場や既得権を背負うと、それを守って抱え込まなければいけなくなる。生き抜くためには必要なことだが、すでにそういった考えはレガシー(遺産)になっていると思う。シェアすることで世界全体がボトムアップできる。それをインターネットが支えている。情報を独占して利益を得ていた人たちが、突き崩されている。ON-PAMはもっとオープンにシェアする方向に、舵を切る必要がある。

会員1:
(大学教授などの)学術関係者に任されていたことが、自分でできるようになった。まだ我々自身がON-PAMの武器が何かをわかっていない。我々はアーティストと近い。それが強み。そして共感する人を組織することが出来る。根っこをつかんだところにいる。お客さんとアーティストとそれ以外をつなげられる。そしてもう1つの我々の強みは、しがらみがないこと。個人の集合体だからできることがある。

会員4:
組織を背負わない個人であることは最大の強み。個人同士として出会えることもチャンス。ON-PAMには制作会社や劇場関係者、助成金を出す側の人がいる。上下関係にある人たちもいる。約150人の会員の中には演劇界のステークホルダーもいる。そんなステークホルダーらが平等に話し合える場がON-PAM。

会員5:
ON-PAMのような組織の活動は、表現の自由にもつながるのではないか。組織に所属しつつ、個人の声を言える。

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●制作者は「助成金申請担当」「雑用係」ではない/「新しい制作者」を示す
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会員4:
日本ではまだ「フリーの制作者」という職能が確立されていない。かつての劇団制の中における「助成金申請担当」「雑用係」と認識されている。アーティストが中心で、それを支える制作者がいるという古い構造は、既に崩れている。制作者像を時代によってアップデートしていくべき。「新しい制作者」の定義を考え、自分からアップデートする。制作者は助成金申請以外の活動もしているし、劇団制に基づいた制作者とは違う役割もある。そして制作者には表現したい社会像がある。価値を作り出すのはアーティストだけではない。ON-PAMが新しい制作者像を示すことで、旧来のイメージを刷新できる。ON-PAMは必然性を持って生まれてきた。歴史の経緯を踏まえつつ、未来へ向かう言葉を出していきたい。

会員1:
制作者はお客さんと向き合っている。5~10年後の若者がどうアートとかかわっていくのかを考えられる。

会員4:
ON-PAMは表現者と近くて、モノづくりとは何かを知っている集団。ノウハウだけでなく、研究者には持てない現場のリアリティーを持っている。制作者はスキルを共有し、勉強して高め合っていく。ON-PAMが制作にかかわるさまざまな専門スキルに開かれているのも同時代的。組織では疲弊が起こりがちだが、制作者は個人で学べる。制作者は色んな所に行けるから、ノウハウやスキルが個人に蓄積されていく。

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●プロデューサーと制作者の違い/スーパーな制作者しか生き残れない
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会員4:
「新しい制作者」の定義を考えるにあたり、プロデューサーと制作者の違いを明確にした方がいい。

会員3:
「プロデューサー」は日本の「制作者」に含まれる。プロダクション・マネージャーはプロデューサーとは能力が違う。アーティストの力を引き出し、周囲の人たちと円滑に、すべてのスタッフに100%の力を発揮させるのが仕事。ヨーロッパでは広報、プロダクション・マネージャー、プロデューサーは別の仕事。分業するので当事者意識が薄くなる傾向がある。日本の制作者は何でもやる、スーパーな制作者。

会員4:
欧米では分業できるが、日本はそれではやっていけない。

会員3:
スーパーな制作者しか生き残れないのは非常に問題だ。自分がやってきたことを若手に求めてはだめ。制作者の仕事のベーシックな部分の水位を下げるべき。もっと多くの制作者が生きていけるようにしないと、自分たちの労働環境も良くならない。

会員4:
40代で子供がある女性は、日本で制作者として働けるのか?年を取るとできないことも増える。ただ、現場ではなく制度の側に回れる選択肢は増えたとも言える。

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●多様性を排除しない
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会員3:
制作者が作品にどこまでコミットできているかは、制作者によってバラバラ。国内、国外問わず、アーティストとともに作り上げる人が少ない。劇場主催やフェスティバル主体の公演が増えたせいでもある。作品づくりが希薄になっている。自分はそこを大切にしている。「新しい制作者」の特徴は「ジャンルを横断する」「マルチディシプリン(多分野に専門分野を持つ)である」ことだと思う。色んなジャンルと交わって、輪郭が広がっている。そこでリードしていくこと。演劇のことだけをやるのではない。今求められていることのひとつだと思う。

会員8:
作品にコミットする制作者がいる団体の舞台は面白いし、個人的にそういう作品が好きだ。でも、そういう制作者ではない人もON-PAMの会員にはいる。例えば私は作る側でもない。また「新しい」わけでもない気がする。昔もそういう制作者は存在していたはずで、劇団制における「雑用係」の印象が強かっただけではないか。

会員4:
ON-PAMの会員にはさまざまな職能がある。制作者も多様化する。多様性を排除しないことが重要。(今後できるかもしれない)中間支援組織でも、ON-PAMでも、すべての会員のニーズに応えることはできない。包括はしてはいけないし、不可能。情報や悩みを共有して、フレキシブルに対応する。他の組織とのネットワークもある。

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●Creative Producer
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会員7:
Creative Producerという言葉がある。APP(韓国、日本、オーストラリア、台湾の制作者の集まり)に参加した時、英国人の基調講演で聴いた。2000年代のブレア政権時に「Creative City」「Creative Education」といった言葉が出てきた。「Creative Education」とは例えば最新テクノロジーを使った新しい教育のこと。Creative Producerとは創造する制作者というよりは「創造的な制作者」。問題をクリエイティブに解決するプロデューサーのこと。

会員8:
他の分野にもCreative Producerはいる。社会に対して提言を発するアクティビストなど。(制作者と)深いところで繋がっている。

会員4:
(提言の方法において)最もクリエイティブでないのは、文句を言うばかりの陳情型。公の組織にON-PAMがアプローチする場合は、Win-Winの関係を作りたい。舞台芸術業界全体が「文化政策=文化庁」という構図にしてしまっていることは良くない。色んな政策に複合的な視点が必要。そういう意識を我々の側に持っていないと、すぐに陳情型になる。

会員4:
制作者は社会とアーティストをつなぐ人。表現は個人にしか立脚しえない。でもいい作品を作ることへの情熱は共通しているはず。制作者が個人で立脚し、それぞれが信じる価値観を持ち、未来の観客ともシェアする。個人立脚すれば、スキルを個人に蓄積できる。まわりまわって舞台芸術業界全体に貢献できる。そんな風土をつくっていきたい。

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【所感】(高野しのぶ)
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今回はON-PAM会員が他者の発言にしっかりと耳を傾けつつ、それぞれに率直に意見を出していったので、議論がどんどん深まってとても充実していました。これまでの2年間の活動で学んだことが共通言語になりましたし、よく顔を合わせてきたおかげでリラックスできていたのもあると思います。何より、組織単位ではなく個人の集まりであることが、こんな自由で豊かなディスカッションを可能にしたのだと思います。ON-PAM理事長の橋本裕介さんによる【孤立と連帯「舞台芸術制作者オープンネットワーク」発足に寄せて】(セゾン文化財団「view point Vol.63」)に、ON-PAM設立の経緯がまとまっています。「孤立と連帯」とはまさに「ON-PAMとは何か」と一致するものだと思います。

私は作品作りの現場の人間ではなく「作品と観客をつなぐ仕事をしている人」です。演劇のおかげでとても幸せになれた一観客として、演劇に恩返しをしたいと考えています。制作者は舞台芸術公演に不可欠な存在です。制作者が疲弊しない環境を、制作者自身が作っていくことに協力したいという思いがあり、ON-PAMの会員になりました。「ON-PAM(Open Network for Performing Arts Management)という名前に込められた意味を掘り下げ、「われわれはどこから来て、何者で、どこへ行くのか」を強い言葉であらわし、未来像を語れば、それが提言になる」という発言に共感しました。来年度には提言が具現化するかもしれません。引き続き自分らしいスタンスで、ON-PAMにかかわっていきたいと思います。

※私自身もディスカッションに参加しておりましたので、私がいたグループの発言の方が多く記録されています。申し訳ございませんが、参加者全員の発言をまんべんなく記録できたわけありません。

以上です。

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