「舞台芸術事業の契約についてー持続可能な創造環境整備のためのステートメント」

2020.7.16

「舞台芸術事業の契約についてー持続可能な創造環境整備のためのステートメント」

特定非営利活動法人 舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)は、「舞台芸術事業の契約について−持続可能な創造環境整備のためのステートメント」を発表いたします。

本ステートメントはON-PAM提言ガイドラインに則り、「全体提言」の手続きを経て、2020年7月8日 に承認されました。


舞台芸術事業に関わる皆様へ 

舞台芸術事業の契約について 
―持続可能な創造環境整備のためのステートメント

2020 年 7 月 8 日 

今般のコロナ禍において、2020 年 2 月 25 日に「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(内閣設置の新型コロナウイルス感染症対策本部決定)で示されたイベントの自粛要請をきっかけに、2 月末から現在まで数多くの舞台芸術事業が中止となりました。そのため多くの舞台芸術関係者が仕事の中断を余儀なくされ、現場を支えるフリーランスの実演家・スタッフは収入が途絶えるという事態が現在も続いています。

舞台芸術業界におけるコロナ禍の影響は多岐にわたりますが、口頭のみによる依頼・発注の慣行など、舞台芸術業界における業務委託(請負)の方法や業務内容、期間と対価・報酬額の考え方について見直す機会となったこともその一つです。

日本俳優連合が4月に俳優及び声優を対象に実施したアンケート調査によると、コロナ禍の影響によって仕事がキャンセルになったことを証明できると答えた回答はわずか 4%でした。また、このことは政府や自治体が策定する給付金の基準作りにも影響し、フリーランスを支援するための制度の策定までに時間を要したといいます*1。公演等が中止になった際の実演家・スタッフへの報酬等の支払いは、仮に支払おうとしても明確な基準や契約書への記載、根拠がないことも多く、日本俳優連合による同調査によると 70%以上の人がキャンセル料を支払われなかったと回答するなど、それぞれの現場で様々な判断がなされているのが実態です。

また上演団体等が実演家・スタッフ等個人と交わす契約のみならず、公演等の主催者(地方公共団体や公立劇場、学校等含む)と上演団体の間においても契約書等の書面締結がなされていない、あるいは公演中止時の取り決めが明確でないために、上演団体への補償がなされていない事例も報告されています。

このような事態を受け舞台芸術制作者オープンネットワーク(以下 ON-PAM)では、政策提言調査室において劇団、劇場、芸術祭、制作会社、公的文化財団、フリーランスなど様々な立場で舞台芸術制作に従事する会員がオンラインで集まり、「契約ワーキンググループ」を発足させました。はじめに、今回の問題を議論するうえで、舞台芸術制作者が業務の特性上

(1)舞台芸術に関わる幅広い業務を発注する側/受注する側双方の立場であり得ること
(2)契約内容や報酬額の立案、決定、執行に関わる立場であること
(3)公演主催者の公演実施可否の判断に関わる可能性があること
(4)事業の赤字等のリスクを負う可能性があること
を、改めて確認しました。

日本の舞台芸術業界の契約にまつわる課題は、業界の慣行や歴史、この国の舞台芸術を取り巻く経済構造の問題など、多岐にわたる視点から検討すべき複雑なものです。例えば、実演家・スタッフ一人一人の能力や信頼関係を基盤とした創造現場では、契約書がなくとも契約や業務が成立してきた側面もあり、一義的には必ずしも否定すべきこととは言えないでしょう。あるいは、民間の劇団やダンスカンパニー、プロダクション等においては、契約書等の締結に対応できる人的資源や経済力が十分ではないケースも懸念されます。このように、この問題は簡単に白黒が付けられるものではなく、対策の議論は継続していくべきものと考えます。

一方で、この春に起きたような、事業の主催者が実演家やスタッフ等に「支払いたくても支払うための根拠がない」、またフリーランスで活動している者が「自身の業務や報酬額を証明できない」といった問題は、コロナ禍の終息が見通せない中、公演等の舞台芸術事業や劇場の再開が検討されている現在から秋以降にも大きく関わると想定されます。

ON-PAM ではこの問題を、舞台芸術事業に関わる人たちの職業としての継続が危ぶまれる喫緊の課題であると同時に、舞台芸術の社会的信頼の醸成、社会的役割の認知普及にも繋がる重要な課題と捉え、会員各自が舞台芸術制作者として契約に関する以下の取組みを実践していくと共に、舞台芸術事業に関わる皆様への呼びかけを行います。

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①業務内容・条件等を整理した契約書、覚書、発注書等の書面(電子契約書等含む)を発注者・受注者が交わすことの重要性を改めて認識し、事業実施にあたり適宜必要な手続きを行うこと

②舞台芸術事業に関わる受注者/発注者が双方の立場を尊重することで、実演家、テクニカルスタッフ、制作者など舞台芸術の創造現場に携わる人たちが安心して業務を担えるようにすること

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そして①に関する具体案として、「舞台芸術事業の契約について-ON-PAM 政策提言調査室 契約ワーキンググループからの提案」(別紙)を作成しました。舞台芸術事業に関わる皆様の参照資料として、状況に応じて適宜更新することを前提とし共有します。
上記①、②の実践が、舞台芸術事業に携わる人たちの権利を守り、天災地変や伝染病流行等の不可抗力に対しても共に乗り越える信頼関係を醸成し、より持続可能な創造環境の整備につながるという認識のもと、今後も本課題に取り組んでいきます。

舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM) 


*1 結果、今回の「持続化給付金」は契約書等での減収証明は不要で、昨年度との収入比(任意の月との比較)が基準になっている。


関連資料
別紙 「舞台芸術事業の契約について ―ON-PAM 政策提言調査室 契約ワーキンググループからの提案」

PDF
舞台芸術事業の契約について_ステートメント
別紙_政策提言調査室ワーキンググループからの提案