【レポート】ON-PAM 国際交流&地域協働合同委員会「海を越えて地域とつながる」@城崎国際アートセンター

2014.6.30

5月31日から6月1日の2日間にわたり、国際交流&地域協働合同委員会が開催されました。
今年4月にオープンしたアーティスト・イン・レジデンス施設、城崎国際アートセンター(兵庫県豊岡市)を会場とし充実したプログラムを含む合宿形式ということで、意気込んで参加させていただきました。

私の住む町から電車を乗り継ぎ7時間程かかりましたが、自然に囲まれた城崎温泉駅に着いた瞬間に驚いたことは駅周辺のにぎわいと観光客の多さでした。アートセンターへの道中も途切れることなく土産物屋や旅館、随所に7つの外湯が点在しており行く先々で浴衣姿の観光客が鳴らす下駄の音が心地よく響いていました。

5月31日

13:00- 委員会定例会

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(1)西山葉子氏(城崎国際アートセンター プログラム・ディレクター)より、同センターの紹介がありました。クリエイションの場をアーティストに提供するレジデンス専用の施設は全国でも希少ですが、そのミッションもまた他に類を見ないものでした。すでに、国内外でも温泉街として名が通り(ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンに掲載)、アートによる「町興し」が求められていない地域でレジデンスを行うことの意味は、滞在したアーティストが外で「城崎」を語ることで期待される次の来訪者や創作した作品が他で上演されることによる、城崎のブランディング化であるとのこと。また、施設名に国際と付いているように、地域と世界が直接つながる国際化を重視しているとのことでした。選出されたアーティストには、3日から3ヶ月の間で創作スペースと宿泊が提供され、発表の有無は問わないそうですが、条件として、滞在中の地域還元プログラムをお願いしているそうです。町興しを必要としない地域が同センターに求めることや、住民との関わり方などを慎重にリサーチし考えるとともに、アーティストにとっても意味のあるレジデンスの在り方を模索しているとのことでした。今年度は早稲田大学の夏期大学を同センターで行うなど、若者の呼び込みも期待できます。

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(2)小倉由佳子氏(地域協働委員会委員長):地域協働委員会は、「地域からの国際発信」をひとつのテーマとしています。「地域」について話し合うと、その範囲や状況の違いが浮き彫りになり、また、地域と世界は切り離せない関係であるため、国際交流委員会と共通のテーマで話し合えるのではないかということで、今回、合同開催に踏み切ったそうです。城崎は、志賀直哉の小説「城の崎にて」の舞台ですが、100年に1人でも逸材が生まれればその地域が知られるということを思ったと話されていました。

15:00- 内覧会

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最大1000人収容可能な大ホールを併設する宿泊型会議施設、旧城崎大会議館をリノベーションし、大ホール(500席ロールバックチェア)、6つのスタジオ、最大28名宿泊可能な和洋室、キッチンなどを備えた4階建ての施設として生まれ変わりました。クリエイションには充分な設備を備えており、また、キッチン横のオープンテラス付カフェスペースや外湯の利用などは、コミュニケーションやリフレッシュの場に最適な環境となっています。

16:00- 基調講演:中貝宗治豊岡市長

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「小さな世界都市をめざす」。人口9万人の小さな町でできることは、他地域を真似るのではなく、突き抜けた活動を行うことであるという言葉が印象的でした。1965年から始まったコウノトリ野生復帰の取り組みにより芽生えた「情熱の伝播」、「共感の連鎖」といったものがこの町の根底にあり、長く広い活動を支えてきたとのことです。実際、コウノトリに関する活動が端を発し取り組んできたことが、経済や環境にも大きく影響を与え、現在、環境都市「豊岡エコバレー」の実現に向けて動いているそうです。制作者も、対同僚、アーティスト、行政、他団体など全ての関係において、まず、他者と未来のイメージを共感できるかどうかだと思いました。

城崎国際アートセンター設立も突き抜けた活動の一つですが、レジデンス専用の施設をと思い立った時に、平田オリザ氏(劇作家、演出家)や佐東範一氏(JCDN代表理事)に視察していただき、お二人共が、「町が素敵なので国内外から人が来ますよ」とおっしゃった言葉を信じて設立に至ったそうです。当時は海外から応募があるとは予想もしていなかったが、実際は6カ国25組のアーティストから応募があり、大変驚いたと話されていました。情熱を持って町づくりを先導し、同センターの活動にも尽力しながら、我々ON-PAM会員を温かく歓迎し気さくにお話ししてくださった姿が大変印象的でした。

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夜の親睦会は、市長から但馬牛、近隣宿の若旦那から地酒や貝などの差し入れを頂き、オープンテラスを開放したカフェスペースでのバーベキューを堪能させていただきました。

6月1日

9:00- レクチャー(1)「フランスと日本 新たな芸術的協同にむけて」

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ディアーヌ・ジョス氏(アンスティチュ・フランセ 日本文化担当官)
アンスティチュ・フランセ日本が2012年にフランス大使館文化部と統合し再編成を果たすまでの流れと、チームワークが必須な舞台芸術分野において、「相互交流」の重要性を唱えた取り組みについてご紹介いただきました。再編成については、危機的状況下で自らの殻に籠ることは何も生み出さないが、一つになることでより強くなれると話されていました。また、フェスティバル/トーキョーや静岡県舞台芸術センター(SPAC)との国際共同制作の事例を挙げ、日仏双方にとってメリットになることを念頭に、創作された作品は両国で発表する機会を設けるなど、長期的な連携をサポートしているとのことでした。このような組織が身近に存在することで、アーティスト、劇場、行政間のつながりを強め、新しい共同制作の可能性を試みることができるのだと実感します。

10:30- レクチャー(2)「未来のアイデアと人を育てる」

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竹下暁子氏(山口情報芸術センター(YCAM)プロデューサー)
メディアアートに特化した同センター(2003年開館)の取組みについてご紹介いただきました。専門家10名程が所属するインターラボ(研究開発チーム)では、レジデンス・アーティストへ技術的なアドバイスをしつつ共同制作しているとのこと。アーティストとは、創作前から巡回することを視野に入れた契約を結び、その結果、梅田宏明氏の作品(2011)のように24カ所9カ国で巡回するなど、モビリティを重視した創作を行っているとのことでした。また、ダンサーの安藤洋子氏らと開発したプロジェクト「Reactor for Awareness in Motion」などのツールは、ウェブサイト上で公開しオープンソース化にも力を入れていることは大変興味深いです。(メディアを扱うための特殊な著作権関係を含めた契約書のフォーマットも公開しているそうです!)
また、教育普及や人材育成(有償ボランティア)にも力を入れており、研究開発チームが常駐しているからこそできるオリジナルワークショップも魅力的な内容でした。メディアという最先端のツールを用いて、人と人をつなげる役割を果たしている施設だという印象を受けました。

12:30- レクチャー(3)「SPAC(静岡県舞台芸術センター)のふじのくに⇔せかい戦略」

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横山義志氏(静岡県舞台芸術センター学芸部)
「国(首都)を介さず、世界の地域と地域、人と人が直接つながる」を主軸に取り組まれている活動として、演劇祭、海外アーティストとの創作(演劇祭向け、鑑賞事業向け、子供向け)、海外ツアーといった3つの国際交流事業や、地域での海外交流事業についてご紹介いただきました。演劇祭では、アーティストと観客が交流できるフェスティバルbarの設置、招聘したカンパニーが互いの作品を鑑賞できるスケジュール組み、次につながるパートナーの発掘、などの仕組みづくりが印象的でした。また、劇場付きの劇団が創作した作品は欧州をはじめ多くのフェスティバルに招聘されていますが、「(今まで演劇を見たことのない)地域の観客に通じる表現は、海外の観客にも通じる。」と話されていたことに共感しました。現在、首都圏からの観客は全体の2-3割、劇場で働く人は70から90名程ということで、舞台芸術に関わる人間が地域に増えていくことで、若者に一つの働き方の選択肢として示すことができると話されていました。今後、交流先の多様化(特にアジア)や国内劇場間の交流を視野に入れているとのことです。

13:30- ディスカッション

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テーマ:
1.なぜ、アーティストと地域が関わり合うのか?
2.地域の中の芸術拠点が国際的な活動をする意義とは?

5名程のグループに分かれて話し合いました。上記のテーマを更に噛み砕き、以下のような意見が挙がりました。
■アーティストと地域
・異質性と多様性。
・多様性が認められることで移住者が増える。
・よそ者、ばか者、若者が面白い町を作りだす。
・演劇人も住める町が理想。(コウノトリの事例のように演劇人を育む町)
・アーティストが地域と関わる必要性は行政が求めていることではないか。
・人と人が関わることで生まれる場が地域である。

■観客の育成
・リテラシーの向上。
・観客間の議論を誘発する作品。(専門家と一般客の視点の違いに面白みを見いだす)
・舞台芸術の映像公開。(例:NYオペラ)

■地域への還元
・子供との関わり。
・人材育成。
・アーティストが滞在した地域や住民に与える影響力の大きさ。
・近年、欧州のフェスティバルで上演する作品は、国名でなく地域名が記載されている。(京都国際舞台芸術祭KYOTO EXPERIMENTも同様)

■作品のモビリティ
・作品に地域性を入れる必要性は必ずしもない。
・創作した作品の約束された巡回先。(例:パリで創作した作品はフランスの地方劇場に受け皿がある)

■その他
・フランスのように、作品を国代表として紹介することはない。(文化政策の違い)
・各地の劇場が突き抜けた独自の活動を行っており、それが日本の舞台芸術の多様性を生み出している。
・国レベルではなく、都市と都市、地域と地域の方が連携しやすい。(例:ソウル、釜山、横浜でのフェスティバルボム開催)
・お金の出所を無視できない。(行政からの助成金など)

他劇場/制作者と共有する機会を中々持てない地方に住む者にとって、今回のような合宿形式の集会は互いを知り、そこから共に生み出せる場であると思います。
所属の異なるON-PAM会員の多様性から生じる様々な視点が、自分自身を偏った考えから解放し、気づきを与えてくれました。
帰る道すがら、町の番人のように凛々しく電柱上に立つ2羽のコウノトリを見ることができ、また、自分の地域に戻り、見つめ直そうという励みになりました。

 

参加者数:合計35名
ON-PAM会員 計22名
・国際交流委員会 11名
・地域協働委員会 9名
・以外 2名
ON-PAM非会員 13名(ゲスト、城崎国際アートセンター・スタッフ含)
文責:山浦日紗子(高知県立美術館/国際交流委員会)