ON-PAM委員会「非営利の舞台芸術を支えるー中間支援団体の役割と可能性」レポート

2025.7.6

日時:2025年3月8日(土)14:00-16:10
会場:BUKATSUDO HALL、オンライン
スピーカー:野村政之(信州アーツカウンシル ゼネラルコーディネーター、一般社団法人全国小劇場ネットワーク代表理事、ON-PAM理事)、他


ON-PAM委員会「非営利の舞台芸術を支えるー中間支援団体の役割と可能性」

各地の舞台芸術の創作活動や創作環境を、どのように支えるのか。特に市場原理では成立しづらい舞台芸術作品に取り組む個人や団体を支える仕組みを、中間支援団体という立場からどのようにアプローチするのか。ON-PAM理事である野村政之さんの実践を軸に、参加者とラウンドテーブル形式でディスカッションを行った。委員会はまず、野村さんの情報提供から始まった。ご自身の演劇活動から出発して以来、公共ホールや民間劇場、自治体や各アーツカウンシルなどのキャリアを「一貫して自分のひとつの活動」ととらえ、さまざまな舞台芸術の創造現場に立ってきた野村さん。

「この数十年で、日本の舞台芸術を取り巻く環境や社会的な位置づけ、人々の関わり方や価値観が大きく変化してきた感覚がある」と前置きし、そうしたなかで「舞台芸術を維持するために、非営利的なあり方の意義・理念を社会へ主張して、資金的支援を得ようというストーリーラインだけでは、舞台芸術そのものの価値を市民・県民・国民・観客と共有するのは難しいのでは」と疑問を投げかけた。

非営利的な舞台芸術の取り組みには、これからの社会のシミュレーションや新しい価値観について考えるような実験的な役割もある。この時代に生きる人々が大切にすべきことや視点などを問いかけ、共有する試みでもあるはずだ。その時の「担い手」は必ずしもアーティストだけではないし、市民を「アート/コンテンツの消費者」の位置に釘付けにしてしまうのでは、文化芸術の価値が片手落ちになる。国が文化政策として「稼ぐ文化」を掲げるなか、“コンテンツ”ではない文化芸術のあり方を、ON-PAM全体で示していけたらと野村さんは提言。

文化政策だけでなく、政策立案において「エビデンス」ベースに設計していくEBPM(Evidence Based Policy Making)の理論が採用されているなか、政策立案の根拠となる文化芸術の意義を可視化できる手法が問われている。そのうえで「変化の激しい社会情勢やアートの性質上、理屈だけでその重要性を伝えることは難しい」と、多様な社会関係の中にアートの存在させることで経験を共有し、現場にいない人々にも、人づてに取り組みや効能が広がっていくような「エビデント」の大切さについて語った。

また「非営利的な活動の社会的意義や公共性を、どう言語化して国や自治体の支援策に反映させたり、社会と共有することができるのだろうか」という問いが会場から上がった。それに対して野村さんは、信州アーツカウンシルでのローカルな実践を例に「地方に暮らす人々の日常には、研ぎ澄まされた芸術活動は逆に立脚しづらい。一方で、文化芸術活動のクリエイティブな側面や、場の空気や既存の関係性をほぐすことは期待されている。

舞台芸術だけでなく、音楽でも美術でも、伝統芸能でもなんでもいい。文化芸術が社会に対してさまざまな価値をもたらしていると感じてもらうためにも、市民や鑑賞者の生活の日常と、どういう接点・どういうフックをつくるかが重要」と、支援を考えるうえでの立脚点について語った。また、舞台芸術の分野にとどまらず、文化芸術の可能性に注目するステークホルダーとの協業が鍵だと述べた。

ディスカッションの前半に野村さんが示したローカルな視点から、後半にかけては全国に約2000館ある文化施設の利活用についても議論が展開していった。「本来は地域の文化芸術の基地であり、拠点としてその地域全体を文化的に浸していくような存在」と野村さんが表現すると、会場からも「もともとその地域にどんな文化芸術、そしてどんなコミュニティがあったのか、から始めなくては、本来意図していない使われ方も多くなってしまう」と、人々の足下にある文化芸術に目を向けることについて賛同する声が上がった。

その「コミュニティ」という言葉を受けて野村さんは、市民も参画してクリエイターの活動に直接資金を援助して活動を支える「広義的なコミュニティ」のあり方の可能性を示した。「新しいチャレンジをするとき、従来の木戸銭のようなマネタイズには限界があり、助成金は使用用途や補助範囲などにルールが多く、アウトプットのかたちも限られてしまう。純粋に『新作が見たいから』でつながりあってクリエイターをサポートするコミュニティをつくっていくことを考えたほうが直接的であるし、文化芸術の持続可能性にも繋がるのではないか」と提言。これからの舞台芸術の新たな運営のかたち、そして中間支援組織が持つべき視点などが活発に議論された、有意義な時間となった。

執筆:遠藤ジョバンニ