ON-PAM 委員会 2024 @YPAM 未来志向で考える、これからの劇場・フェスティバル レポート
2026.6.9
日時:12月6日(金) 13:00-13:40
場所:男女共同参画センター横浜南フォーラム南太田
登壇者:加藤奈紬(制作・コーディネーター/豊岡演劇祭プロデューサー)、キャメロン瀬藤謙友(ドラマトゥルク/扇町ミュージアムキューブ)、半澤裕彦(東京芸術祭事務局)
モデレーター:小倉由佳子(制作・プロデューサー/ロームシアター京都)
ON-PAM 委員会 2024 @YPAM 未来志向で考える、これからの劇場・フェスティバル
日本各地の劇場やフェスティバルにて実務に携わる若手制作者が集い、自身の仕事や作品作り、劇場・フェスティバルのあり方について考える場として設けられた、本ラウンドテーブル。バックグラウンドや活動拠点がそれぞれ異なる登壇者を、モデレーターの小倉由佳子が繋ぎながら議論が進んだ。
まずは、登壇者それぞれによる自己紹介を兼ねながら、抱えている課題の共有が行われた。加藤奈紬は、2020年に兵庫県豊岡市で始まった豊岡演劇祭に立ち上げから携わり、現在もプロデューサーを務めており、豊岡市に移住し活動しているからこそ直面する問題が提示された。「コーディネーター」と名乗ることで、地域の人々を巻き込んでフェスティバルを成立させていくことに関心を寄せているほか、専門人材が少ない中でフェスティバルを成立させていくこと、そこでの働き方にも課題意識を持っていると話す。
キャメロン瀬藤謙友は、大阪市にある民間劇場「扇町ミュージアムキューブ」の職員であり、劇場外でもドラマトゥルクとして作品制作に関わる中で、これまで関西で培われてきた舞台作りのノウハウが、コロナ禍によって学生や若い世代に伝達されていないという課題を実感している。また、これまで若い世代が関西の演劇シーンを批評的な目線で書き残してこなかったことから、「関西舞台芸術シーンの再興/再考」を軸にしたプロジェクト「西陽〈ニシビ〉」を立ち上げ、コロナ禍に上演された11本の戯曲を出版した(関西若手戯曲集『篇西風』)。現在の演劇の状況を言語化して次世代に伝えていくことで、新しい世代をはじめとする様々な人が演劇という取り組みに参加しやすくなることを望んでいると語る。
半澤裕彦は、本多劇場、こまばアゴラ劇場の制作を経て、東京芸術祭事務局で働いている。「劇場」と「フェスティバル」という異なる立場で働いた経験から、それぞれで感じた地域との関係性や、評価のロジックの変化を課題に挙げた。例えば、劇場では、以前はその劇場からどれだけ日本や世界に羽ばたくアーティストを発掘できるかという点が評価され助成を受けていたが、次第に「その劇場が自治体に対してどれだけ還元・貢献できているか」というロジックに評価の基準が変わったことにより、「劇場がこの場所にある意義は何か」を悩んだことや、フェスティバルにおいては、「東京」で行われる意義や価値を模索し続けていることなどが語られた。
はじめに議題にのぼったのは、加藤が提起した「働き方」について。加藤は、地域で舞台芸術の制作者として、それだけで生計を立てていくのは難しい現実を述べた。フェスティバルの主催が自治体であり、予算が1年単位で組まれていくため来年度の雇用を約束できず、安定した雇用ができないことから、都市部へと人が離れていってしまう。一方で、舞台芸術の制作やコーディネーターとしての思考や手法は、地域の生活の中で課題解決に役立ち、舞台芸術以外の仕事にもなる可能性があると感じている。
例えば、演劇祭期間には各会場にアクセスするための公共交通機関の整備が必要となるが、その不便さは地域の日常的な課題でもあり、演劇祭のために作るシステムを、国交省の予算を獲得し地域の交通事業者と年間を通じて実証実験するなど、「舞台芸術」の制作・コーディネーターという自分の専門性を、分野を越境して地域に還元することもできる。また、豊岡演劇祭のために関東や関西から集められた制作者たちが、豊岡の芸術文化観光専門職大学の学生と一緒に働きながら仕事を教えることで、学生が将来どのようにキャリアを形成していくか考えるための、様々な「働き方」のロールモデルと出会う機会になっている。
モデレーターの小倉からは、加藤の実感を通じて、地域のフェスティバルでは今まで季節労働的に一時期にしか人が集まらない・残らないことが「課題」として挙げられていたが、それが課題としてではなく、舞台芸術以外の地域での仕事の広がりや、地域の学生にとってインキュベーション的な機能を果たしているという側面も持つことが示された。キャメロンからは、公的予算で行われる豊岡演劇祭に対して、民間劇場として限られた予算の中で、公益的な人材育成をどのように行なうことができるかが話された。
大阪では商人がパトロンとなり文化芸術を支えてきた歴史があり、行政による支援や公共劇場が発達しにくかった。「扇町ミュージアムキューブ」は民間劇場であるが、公益的な人材育成を担っていかないと、アーティストや技術者が育っていかず、利用者が減少してしまうという危機感がある。そのため、同じ予算で複数の目的を達成できる方法を探っているという。扇町ミュージアムキューブを会場として使用した全国学生演劇祭では、大阪府民や市民が全国から集まる学生劇団の上演に触れることで豊かな文化体験の機会が生まれるという目的で助成金を獲得しているが、学生が実行委員会に入ることで、演劇祭の運営を通じて予算の組み方や公演の打ち方を学ぶという目的も同時に果たした。
また、劇場が舞台監督業務を引き受けた公演で、仕込み日を早めに設定し実際の舞台セットを使ったワークショップを開くことで、予算を別立てする必要なく、若手に「現場で覚える」機会を提供することができた。このように、民間劇場ながらも予算を圧迫しない形で、地域に貢献する方法を模索している。
人材の育成・確保という観点で半澤からは、俳優や演出家などのアーティストが「制作者」というアイデンティティを持って働くことが増えているという実感が語られた。
以前は俳優をしながら自身の劇団の制作業務を担うケースが多かったが、今は劇団内の制作業務から一歩外に出て、プロフェッショナルの「制作者」として活動するケースが増えてきている。アゴラ劇場の制作部や東京芸術祭で関わる制作者の中にも、俳優をやりながら制作をしているメンバーがおり、人材不足が悩まれる現代では、そのような共存の仕方が必要とされるのではないかと考えている。日本各地のフェスティバルの多くが秋に開催されるため、準備期間を含めると制作が必要とされる時期が重なってしまい人材のやりくりが難しいが、そのように一時的に多くの制作者が必要な時に、俳優や演出家がプロフェッショナルの制作として現場に入れることで、人材のやりくりができる可能性があるのではないかと考えている。
モデレーターの小倉は、ここまでの3人の話に「限られたリソースの共有」「共存」といったキーワードが共通していることを挙げた。このラウンドテーブルを主催しているON-PAMは「オープンネットワーク」であるが、設立の経緯について、東日本大震災をきっかけに情報共有のためのネットワークが必要となったことを立ち上げメンバーの1人である小倉が説明し、登壇者3名の周りでは現在どういった「コミュニティ」「ネットワーク」が育まれているのかに話題が移った。
キャメロンからは、関西を拠点に活動する複数の劇団の主宰者・制作者・ドラマトゥルク・プロデューサーらが集まり、情報を交換したり自分たちが抱えている課題を共有したりするコミュニティとして、「西陽〈ニシビ〉」の誕生があったことが挙げられた。コロナ禍をきっかけに、民主的に情報を共有する試みが生まれたという実感を語り、半澤に東京の状況について投げかけた。
半澤からは、演劇プロジェクト・円盤に乗る派が設けた「円盤に乗る場」を例に挙げながら、オルタナティブでライトなコミュニティが増えているという東京での実感が語られた。「円盤に乗る場」は、10〜20ほどのアーティストが集まり、普段の公演とは違う実験的な創作が試される場として、公演の創作からは少し離れたライトなコミュニティとして存在している。見知った人同士で始まったそのようなコミュニティを、いかに外に開いていくかという新しい課題が生まれているという。
キャメロンは、コミュニティへの参加のハードルの高さについて若手から「もっと早くこの情報にアクセスしたかった」と言われることが多々あると明かした。すでにネットワークやコミュニティに参加している側の立場から、「声をかけてくれたらいいのに」などと気軽に発言してしまうが、声をかける・参加する前段階に壁があり、コミュニティの誕生から年数を経ても常に開かれたアクセスを確保していくにはどうしたらいいかという課題感があるという。
最後に会場から、「目指しているフェスティバルの姿と、地域貢献など行政がフェスティバルに求めているもの、それらに対して制作という立場からどのようにアプローチできるか」という質問があがった。
半澤は、社会にとって何が必要か、その必要なことがフェスティバルを通じてどう実現できるかということを、行政からのオーダーと調整しながらプログラムに落とし込むことが、フェスティバルのプロデューサーやディレクター、制作の役割であり、頑張りどころだと語った。
加藤は、フェスティバルのプロデューサーやコーディネーターは、なぜ今この場所で演劇をやって、人と集まる必要があるのかという根源的な意義を、行政の言葉で説明するための翻訳者になっていく必要があると考えている。業界や観客に対して、そのフェスティバルがその場所で開催される理由を提示できなければ、続けることはできない。フェスティバルはミッションがそれぞれ異なるため、「いいな」と思う各地のフェスティバルを見つけてもらえたらと話した。
モデレーターの小倉はラウンドテーブルを振り返り、登壇者がすでに自身の周りの環境や、次世代の育成に意識を向けていることを賞賛した。ラウンドテーブルは用意されている席がほとんど埋まるほどの盛況であり、劇場・フェスティバルの未来への関心の高さが窺われる。集まった人々にとっても、自らの周りの環境に目を向け、未来志向で考えるきっかけになったのではないだろうか。
執筆:水島愛佳