キックオフ・ミーティング議事録

2013.8.5

舞台芸術制作者ネットワーク・ミーティング(仮称)キックオフ・ミーティング議事録

2012年10月22日(月)13:00-17:00
ホテルアンテルーム(京都)にて
参加人数:89名(発起人12名含む)

進行

第1部
・舞台芸術制作者ネットワーク・ミーティング(仮称)とは?
・オープン・ネットワークとは
・舞台芸術制作者ネットワークミーティング(仮称) 設立の動機について
・団体規約の説明
・質疑応答

第2部
・3ヵ年計画の紹介
・意見交換

舞台芸術制作者ネットワーク・ミーティング(仮称)とは?

橋本裕介さん(京都 KYOTO EXPERIMENTプログラムディレクター)[発起人]:この度12名の発起人によって発足させようとしているこの組織は、舞台芸術の制作者を中心とした、国内はもとより国外にも展開していくことを視野に収めたネットワーク型の組織です。何をする組織なのかということですが、この団体を団体として成り立たせるための規約案を元に、目指す組織の概要をお話ししたいと思います。後半ご紹介する事業計画でも触れることになりますが、この団体はNPOの法人格を取得することを目指しています。ですからこの規約案も、ほぼ同じ内容で法人に移行できるよう、特定非営利活動促進法にのっとって作成しています。まず規約案の第3条「目的」を元に全体像についてご説明したいと思います。我々発起人が議論を重ね、特に下線部の言葉にこの組織の意図するところを盛り込んだつもりです。


第2章 目的及び事業

(目的)

第3条

この団体は、舞台芸術を推進する者が、主体的に参加する制作者を中心としたネットワーク国際的に構築、有機的に継続させ、舞台芸術が多様な価値観の発露として社会に活力と創造性をもたらすという認識の元に、同時代の舞台芸術の社会的役割定義と認知普及、文化政策などへの提案・提言、その他この規約に掲げる種類の活動・事業を行なうことで、舞台芸術の発展に寄与し、もって社会全体の利益の増進に寄与することを目的とする。


まず初めに、このキックオフ・ミーティングが、東京ではなく一地方である京都で始まったことの重要性についてお伝えしたいと思います。なにも「東京より京都だ」というようなお国自慢をするのではありません。むしろ、実際に顔を合わせる場所は、どこでも良いということがネットワークの形成にとって重要なのです。量の面で考えれば、東京に多くの人やモノが集約されていることは事実です。

ですから、なにがしかの全国規模の組織を考えれば、東京で済ませれば効率が良いのかもしれません。しかし、今組織しようとしているのは、点と点つまり個人個人のつながりと言っても良いかもしれません。詳しくは規約の「会員」についての説明をお聞きいただきたいと思いますが、このネットワークの正会員としての参加資格は、個人です。どのような組織に属しているかは二の次であって、逆に言えば組織における役割を代弁するためではなく、舞台芸術に携わる個人が主体となっていて、それらをつなぎ、それが恒常的に機能するものでなければなりません。

ですから、中心と言う概念を出来るだけ持ち込まないように意識しています。今回は京都でしたが、京都を中心としようとしているのでもなく、場所はつぎつぎに変えながら、集っていくことになると思います。
次に制作者が主体となったネットワーク組織ということの重要性について述べたいと思います。この組織の目指すところは、舞台芸術が発展していくことだけに留まりません。これはあくまで通過点・手段であって、舞台芸術の振興を通じて、最終的には社会にとって有益な結果をもたらすことを目指すものです。

ですから、特定の成果を達成することのみを目的とするのではなく、また業界の利益を代弁するための組織とはなりませんし、制作者どうしの親睦サークルでもありません。これまで日本の舞台芸術の状況が大きく変動してきた背景には(もちろん目に見えないところでの多くの方々の尽力があったことは確かですが)、ある重要なタイミングでは著名な実演家の鶴の一声のような働きかけが事態を変化させてきたことは否めません。

いわゆる「神輿に担ぐ」というパターンです。果たしてこれでいいのでしょうか?表現者はあくまで自身の表現で世の中と向き合うべきで、彼ら彼女らの興味はそのときどきで変わるでしょうし、社会における彼らに対する評価も変化するものです。将来の状況を見通すようなビジョンを、そこだけに委ねていても良いのでしょうか?もし私たち舞台芸術の制作者が舞台芸術の可能性を信じているのであれば、制作の実務を通じて日々社会と接しているわれわれ自身で、同時代の舞台芸術の社会的役割の定義と認知普及を行わねばならないと考えます。

さらには、社会の中で芸術がどうあるべきか、状況を自ら更新していく意志を持って、文化政策などへ具体的にアドボカシーを行う必要があると思います。それは対行政だけではなく、芸術に関わる民間の企業やNPOそして実演団体といった業界に対しても、提言・提案を行っていくことだと言えるでしょう。とはいえ、提言・提案といったアクションを実行するためにも、まず私たちは有効な知識や情報を手に入れなくてはなりません。それをこのオープン・ネットワークによって共有・交換しながら手に入れていきたいと思います。

このネットワークは別のネットワークと特定の目的においてはつながることも出来ますし、このネットワーク内でサブネットワークを作ることも出来るようにして、より具体的な目的に特化した集まりというものを組織することを可能にしようと考えています。それが、規約案でいうところの「委員会」というものになります。委員会の規定は別途定めますが、おそらくこのネットワークの主な事業は、委員会の活動になると思います。現在舞台芸術を取り巻く状況の中で深く学ぶ必要のあることであったり、対策を講じなくてはならないトピックについて、個別に委員会を組織することになると思います。

今後3年間の間にどのようなトピックに委員会で取り組むのかということが、後半の事業計画の発表の中で説明されることになります。今やもう、「のるかそるか」ではないと思います。立場を超えて、あらゆる困難や課題に取り組むべき時だと思います。皆さんのご参加をお待ちしています。


塚口麻里子さん(東京 PARCー国際舞台芸術交流センター)[発起人]:オープン・ネットワークとは何かということを説明するためにネットワークの種類についてお話します。

ネットワークの種類について
(1)アソシエーション
ヒエラルキー構造をもつ組織形態です。
意思決定もトップダウンで行われ、いわゆる「協会」もこの種類の構造です。
(2)プロジェクト・コンソーシウム
特定の目的のために集まったネットワーク組織で、そのプロジェクトが終わると解散します。何館かの劇場で作品をまわすツアーや共同製作がこの種類に属します。
(3)オープン・ネットワーク
ヒエラルキーのない、水平構造を持つネットワークのことを指します。
互いの活動や文化を理解するプロセスを経て、新しい価値を創造し、有機的に持続性のあるネットワーク。メンバーシップの更新が重要で、自由に入会、退会、そして必要になったときに戻ってくることのできるネットワークです。

オープン・ネットワークとは?
(1)入会、退会、再入会の資格に制限を設けず、成員間のヒエラルキーを生むようなメンバーシップ体系を持たない組織です。
(2)実現目標の達成をもってのみ存在意義を得るのではなく、異なる関心を持った成員の多様な活動を通して有機的に継続する組織です。
この意味で、プロジェクト毎に解散するプロジェクト・コンソーシウムとは違います。
(3)ネットワークの内部でより目的的で、コネクティヴィティを持った人が集まる小規模のサブ・ネットワークを作ったり、ネットワーク間でネットワークを形成したりできる組織です。

今回、自主的に制作者のネットワークを立ち上げようとしている人達で集まり、オープン・ネットワークの概念のもとにそれぞれの概念を理解し共有、交換しながら価値の更新を行うこの舞台芸術制作者ネットワーク・ミーティングを設立しようということになりました。


舞台芸術制作者ネットワークミーティング(仮称) 設立の動機について

伊藤達哉さん(東京 ゴーチ・ブラザーズ 代表取締役/プロデューサー)[発起人]:設立の背景、経緯についてお時間をいただきたいと思います。まずは、1990年以降、急激な変化をとげている舞台芸術を取り巻くわが国の文化政策の流れを簡潔に追いたいと思います。1990年に芸術文化振興基金が設立、1996年に「アーツプラン21」が創設されこれ以降、文化庁を中心に舞台芸術の創造団体や劇場への支援制度が大幅に拡充されてきました。

また1997年には新国立劇場が開場し、現代舞台芸術の分野で国が本格的な公演事業を開始しました。続いて2001年、文化芸術振興基本法が施行されます。これにより、芸術家の自主性や創造性の尊重、国民の鑑賞・参加・創造の環境の整備など、8項目の基本理念が定められ、国や地方自治体の責務が明文化されました。2007年2月には、基本法に基づいた第二次基本方針において「文化力」という言葉が使われ、「文化芸術立国を目指すことが必要である」ことが閣議決定されています。

一方、行財政改革の流れの中で、特殊法人だった日本芸術文化振興会、国際交流基金等が2003年、独立行政法人に移行されます。また、小さな政府の実現に向けた「官から民へ」の流れの中で、同じく2003年の地方自治法の改正によって「指定管理者制度」が導入され、地方公共団体の設置した公立文化施設の運営が民間事業者に開放されました。その結果、文化政策の分野でも、従来以上に効率性や透明性が求められ、政策評価やアカウンタビリティが重視されるようになっています。こうした動きと並行して、アートNPOの活躍も全国各地で注目され始めました。

1998年のNPO法施行から10年間でその数は2,000件以上に達し、中でも中間支援型のNPOが様々な分野で芸術文化の振興に重要な役割を果たすようになっています。そして2006 年、公益法人制度改革関連3法案が国会で可決され、財団法人や社団法人の設立が大幅に容易になり、公益財団・社団には様々な税制上の優遇措置がとられるようになりました。これら民間の非営利・公益団体は、これからの日本の舞台芸術の振興にとって、重要な役割を担うことが期待されます。

私が常務理事を務める日本劇団協議会も2012年4月より公益社団法人となりました。このことにより、演劇の公益性ということがこれまで以上に理事会の議題に上がるようになりました。2009年、政権交代を果たした民主党によって鳩山内閣が発足します。2011 年2月(8日)、基本法に基づく第三次基本方針の中では「『文化芸術立国』を目指すべきである、というより強い表現で閣議決定されています。この中でも特に注目すべきが、芸術文化振興会にアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入するとして、まずは音楽と舞踊分門において2011 年度よりPD、PO を設置、2012 年度より演劇部門においてもPD、PO の運用が始まりました。そして2012年6月には、劇場・音楽堂等の活性化に関する法律、いわゆる劇場法が議員立法で成立・施行されました。

2010年、鳩山政権発足とともに俄に現実味を帯びた劇場法に対応する人材を育成する目的で、セゾン+アゴラ共催による勉強会が開かれました。主に30歳未満の演出家、制作者たちが集まったわけですが、制作者たちが現場を離れて定期的に集い学ぶことがいかに有意義かということを実感します。その繋がりから、青年団の野村くんとプリコグの中村さんと3人で継続的に集まり次なる動きを模索していく最中、2011 年、東日本大震災を迎えます。私自身、吉祥寺シアターで公演を行なっていたのですが、原発事故の影響で公演中止を余儀なくされました。

震災の混乱の中、様々な会合が場当たり的に行われるような状況が続き、有効な手だてがとれたとは言えず、新しい時代に対応したネットワークの必要性をあらためて感じるとともに、制作者という職域の存在が成しうる可能性もまた強く感じました。いま全国の同世代の制作者は何を考えているのだろうか、問題意識を共有したいという思いで、中村さん、野村くんとで声をかけあい京都にて制作者たちのミーティングを行いました。この集まりが今回のネットワークのひとつの母体となりました。このネットワークが政策提言、基盤整備、そして舞台芸術制作者がプロフェッショナルの職能となるような自らの研鑽の場と人材育成の場にしていきたいと思っています。

川口聡さん(東京 Next-ネビュラエクストラサポート)[発起人]:Nextがネットワークの必要性を感じたのは昨年の東日本大震災の時でした。関東では3.11以降、数日にわたり断続的な余震が続き、食料や石油の供給不安が起こり、鉄道各線も停止や再開や一部復旧など刻々と状況が変わりました。また原発事故の影響が関東圏にどの程度及ぶのかや、計画停電の実施とそのエリアの情報が錯綜しました。さらに公演を自粛すべきとの声もあがるなど、公演の上演の判断を難しいものにしたさまざまな事態が発生しました。

地震や事故の発生によって、各劇場、各公演の制作者は、安全性の確保や、避難誘導の方法やアナウンスをいかに行うか、上演中止か実施か、中止の場合は観客への伝達方法をどうするか、上演されなかった公演の費用負担をどうするか、前売券の払い戻しを行うのかなど、重大な判断をすぐさま行っていく必要性に迫られました。そうした危機時に、いかにプロデューサーや制作者が、迅速に各劇場、各カンパニーの対応の情報を共有し、自らの公演の対応を決めていくのかという、「危機時に情報を共有するネットワーク」が必要だと感じました。

これは、その年の夏に予定されていた計画停電や節電の懸念や対策、東北の被災地地域への支援、また公民館などの公共施設の節電対応としての夜間利用停止によってカンパニーによっては稽古場確保が困難になったことにおいても同様です。Nextでも情報共有や危機対応のためのミーティング開催やウェブ上で情報共有の場を設けましたが、さまざまなグループが、対応を協議したり、行動を起こしても、おのおのの個別のネットワークの範囲に留まっていたように思います。Nextは、そうした危機時に対応できる包括的なネットワークとして『舞台芸術制作者ネットワークミーティング(仮称)』の設立を協議してきました。

同時に、「舞台芸術」が蓄積してきた、「人間の関係性に対しての認識」や、「価値観の多様性こそが人の意識や考え方を更新する力となること」や、「問題や課題への洞察力」は、現在の社会の課題解決への重要な「考え方」や「先見性」を内包していると思っています。そういった「舞台芸術」の持つ力を共有し、社会や市民、行政に各々がアドヴォカシーし、継続可能な舞台芸術の世界を構築するとともに、舞台芸術があることの重要性を社会に認知していくため、舞台芸術の制作者を中心としたネットワーク組織が必要だと考えています。

丸岡ひろみさん(東京 PARC-国際舞台芸術交流センター)[発起人]:1995年から始まった東京芸術見本市(TPAM)、2010年に見本市からミーティングへ、会場を東京から横浜に移して、名称も国際舞台芸術ミーティングin横浜に変わりましたが、その名前の催事のディレクターを、2005年からしています。ネットワークというのはすごく曖昧で見えづらいもので、もしくはネットワークのためのネットワークとみなされることもある、ある意味冗長さを伴うものです。劇団をやっている方は、高い機動力と素早い意思決定というものに慣れているかと思いますが、ネットワークというのはゆるやかで冗長な側面を持っています。

TPAMというのはプラットフォームです。つまり場所ですね。毎年一定の同じ場所で繰り返し場所が提供され、皆さんが集まっていただくような仕組みです。しかし、ネットワークというのは人です。人と人がどのようにつながり展開されていくかということは、数量では図りづらく顕在化もされにくいものです。プラットフォームやこういった集まり、フェスティバルもそうですが、それ以外でも、私たちは個人で仕事をしているつながりというのが無数にあるわけですけれども、それをどのように顕在化していくかという仕事をしてきました。

人と人とのつながりはそれ自体が財産で、その財産であるつながりを展開する為の新しい出会いを求めても、自分の仕事の中にだけにいるとなかなか展開しづらいものです。なので、その展開が期待できる機会のひとつがプラットフォームです。プラットフォームとネットワークの話をしますが、まず、世界的にもプラットフォームの多くは公的資金でささえられ、一定の場所に付属し支えられているものがほとんどですが、そのプラットフォームがなくなってしまうと、その場所や機会を使ってつくられ続いていたネットワークが、消えてはしまいませんが、非常に薄いものになるということがよくあります。

例えば関西では大阪に見本市がありましたが、それが大阪の事情でなくなってしまう。するとそこで培われたネットワークも継続していくのが難しくなった。プラットフォームがある事で、人と人の繋がりであるネットワークが個人だけに付随せずにシェアできる仕組みを作っていけるが、そのプラットフォーム自体が実は儚い構造の上にあるということが課題だと思います。この舞台制作者ミーティングが目指しているオープン・ネットワークの特徴の一つにメンバー制であるということがあります。

これからメンバー制のネットワークは大きなプラットフォームを開催する予算がそれ自体になくても、ネットワークの情報をシェアしていくという作業は少なくともメンバー間で維持されるのではないかと思いますし、各地で開催されるプラットフォームやフェスティバルと協力して、具体的に集まる機会も創れる。つまり、プラットフォームが先ではなく、ネットワークが先、とい構造を創る事ができるし、必要ではないかと思う訳です。

ところで、TPAMのようなプラットフォームは世界中にあり、そこに参加する事で、個々人の持つネットワークをつなげ拡大したり、交換したりということが多々ありますが、日本ではそのつながりも個人にのみ付属されがちです。なので、海外からは日本の窓口というのは限られた少数の個人に頼らざるを得ないとまだ見なされている。2005年当時にTPAMのディレクターを始めた時に驚いたのが、20年前から同じ様な人たちだけがまだ日本の顔になっていた。これは不健全だろうと。で、海外のプラットフォームなどと協力して、日本の新しいプレゼンターを積極的に送りだして、新陳代謝を図ろうとTPAMはしてきましたが、現状に比してまだ少ない。もっと多くの顔が見えるようなしくみが必要なのではないかとずっと思っていましたが、このネットワークがそういうものになればと思います。

もうひとつ。国際ネットワークはいらないと思っている人もおいでかと思います。でも私たちは今、舞台芸術という仕事を通じてどのくらい新しい価値の創造ができるのか、今自分たちの世界、状況自体を、芸術という抽象的なものを通じて変えていこうというミッションを制作者が持っていると思うならば、外の視点というのは必要になってくると思いますし、実際に、私たちが歴史上、世界のどこの地点にいるのかということを確認できたり、それは新しいアイディアをもらえることもあるだろうし、その逆もあるだろうという事を考えると、国際ネットワークというのは非常に大事なのではないかと思っています。

野村政之さん(東京 こまばアゴラ劇場制作)[発起人]:このネットワーク・ミーティングのきっかけの一つ、2010年度に公益財団法人セゾン文化財団とこまばアゴラ劇場の主催で行った「創造型劇場の芸術監督・プロデューサーのための基礎講座」を企画・運営していました。90年代後半から公立施設や公立機関の助成制度が拡充されてきて、00年代の文化芸術振興基本法、そして今年の劇場法成立という流れがあります。そうした中で近年でも、優れた劇場・音楽堂の創造発信事業ほか助成制度も改定され、基本的には、劇場への助成が拡充されて、だんだんと舞台芸術に対する公的支援が広がってきています。

また、劇場法成立によって文化予算が増えるというような動きも、とりあえず背景として視野におさめておきたいと思います。そうした中で、先ほどお話しのあった、「国際的に外に向いている日本のアーティスト・プロデューサーの顔が変わらない」のと同じように、公立劇場を担うプロデューサーの顔も、公立劇場が数々できた10年〜20年前とほぼ変わっていませんし、プロデューサーが変わらないなかではプログラムされる芸術家も、取り組みのコンセプトも大きく変わらないと思います。

もう一つの背景として、この日本の経済が縮小する方向に向かっていて、廃校や過疎村など、経済原理で隙間ができたところにアートプロジェクトや新しい文化施策が施されるということが近年進んできています。このように経済原理と違う力で文化をなるべく国民、住民一般に享受できる環境を作っていくことが広まっているなかで、では経済原理や人気ではないどのようなあり方が望ましいのか、議論の場が必要であろうと考えます。

以上のように、助成金制度やプロジェクトという形で、公的なお金が実際に私たちの現場に入ってきているなかで、主催となる公的機関と私たち芸術団体がどう関わるのか。実際、公立劇場で創作したほうが枷がキツいというような状況もあります。そういったことについても、各地域の文化状況を踏まえて、日本全体の文化芸術、舞台芸術のことを国内の立場から一緒に考えていくということが、このネットワークでできればと思っています。

小倉由佳子さん(兵庫 アイホール(伊丹市立演劇ホール)ディレクター)[発起人]:コンテンポラリー・ダンスのフィールドから話をしたいと思います。2001年、JCDN(ジャパン・コンテンポラリー・ダンス・ネットワーク)というNPO団体の活動によって、地域間の活動を促進していくネットワークであったり、アーティスト、芸術、劇場、プロデューサーをつないでいくような活動が精力的にされています。

演劇に比べると、アーティストも取り扱う劇場もプロデューサーも、数が少ないため、かなり顔が見える密度の高いネットワークが、オフィシャルにしてもアンオフィシャルにしても形成されている状況にあると思っています。ただダンスといっても、演劇や現代美術や音楽といったジャンルに接近したような多様な表現になってきたり、そういった状態の中で、ダンスのネットワークの中では解決しきれないような問題や、もっと広いネットワークを必要としている状況があります。

密度の高いネットワークということを活かして、例えばアイホールで海外のカンパニーを招聘したいという事業企画を出した時に、同じような志向を持ち、予算、劇場の規模が同じような劇場をネットワーク化して企画を立てるとき、あの劇場に声をかけようという顔が見える形でのネットワークはできていますが、それがかなり限られたネットワークになってしまっていて、新しい人たちに出会ったり、新しい人脈というものを作っていくのが難しいと、最近感じていました。なので、このような新しいネットワーク、具体的なものを含めたネットワークの必要性を、ダンスのフィールドからも求めています。

あと、私は公共劇場をベースに仕事をしていますが、今の様々な問題を考えていくとき、自分の所属している団体のノウハウを積み重ねていくだけでは対応できない、もう少し広い意味で舞台芸術というものをみんなで考えていくような時期に来ているのではないかと思って、ネットワークに参加したいと思っています。公共劇場に関しても、劇場の仕事を通して他の劇場の方に出会ったり、ネットワークを築く機会は多くあると思いますが、個人個人がプロデューサー、制作者という自覚を持って、個人単位で参加していくネットワークになればいいと思っています。