ON-PAM アジア会議 in シンガポール 4日目レポート

2017.9.18

2017年9月6日

ON-PAMシンガポール会議4日目。
センター42に午前10時集合。シンガポールの若手アーティスト・プロデューサーたちによるプレゼンテーション。振付家チャン・スーウェイ(Chan Sze Wei)がインディペンデントのダンサーとして活動をはじめようとした2010年には、実際にシンガポールでインディペンデントのダンサーとして活躍しているのは二人しかいかなかったという。インディペンデントのダンサーたちをつなぐためのプラットフォーム”Singapore Independent Dance”を立ち上げ、今では500人以上のメンバーがいる。さらに東南アジアにも枠を拡げ、”Southeast Asia Choreo Lab.” “Independent Dance Southeast Asia”といったプラットフォームを立ち上げてきた。
Independent Dance Southeast Asia(Facebookグループ)
Chan Sze Wei

ダンサーとして活動しているカイ・エン(Kai Eng)は生体臨床医学の研究者でもある。だが、「自分の仕事は嫌いなんだけど、政府から878,920.35シンガポールドル(約7,100万円)の奨学金をもらっていて、6年以上この仕事に就かないと、それを返さないといけない」ために、お金と仕事の関係について考えはじめたという。アーティストが「自由に」仕事ができるように、毎月1,000シンガポールドル(約8万円)の奨学金を公募でアーティストに出す事業(あまりに応募者が多くなって処理しきれなくなり、一昨年で終了)や、市内の便利な場所で24時間使えるスタジオを無料で提供する事業をしている。シンガポールでは副業をもって活動しているアーティストが多いという。
http://kaifishfish.tumblr.com/

アディーブ・ファザ(Adeeb Fazah)のザ・セカンド・ブレックファースト・カンパニー(The Second Breakfast Company)は「舞台の上で若者たち(10代~20代)が自らの創造性を表現できるプラットフォームと安全な場所を提供する」ための活動を展開し、この10月にはじめての「アジア・ユース・シアター・フェスティバル(Asian Youth Theatre Festival)」を開催予定。

ターニャ・ゴー(Tania Goh, SaltShaker Productions)は主にダンス作品のプロデュースを通じて、シンガポールと世界、商業的舞台芸術と非商業的舞台芸術をつなげる仕事をしている。
http://www.saltshaker.com.sg/

ロー・アンリン(Loh An Lin)は、アーティスト同士やアーティストと観客とをつなぐための新たなウェブプラットフォームを立ち上げることで、若い世代から、シンガポール舞台芸術界の内なる対立・断絶を克服しようとしている。20代前半の方も少なくなく、大きな目標に向かって着実に歩みを進めている姿に感銘を受ける。

午後1時から4時まで、シンガポール・東南アジアから参加のアーティストやプロデューサーたちと交流セッション。ジューン・タン(マレーシア)の提案にもとづき、今後5年間~10年間の舞台芸術界の動向について、5つのグループに分かれてディスカッション。私が参加したグループでは、各国の舞台芸術マネージメント事情についての話が中心になり、ディスカッションを通じて、シンガポールの状況を深く知ることができた。

シンガポールでは、1980年代~90年代はカンパニーの時代で、多くのアーティストが働きながら劇団をやっていて、やがてそのなかからマネージメントを担当する人が現れてきた。そして劇団で経験を詰んだ制作者が若い劇団の手助けもするようになり、さらにナショナル・アーツ・カウンシルやエスプラネード劇場がそれに目をつけて雇うことで、常勤の雇用に移行するケースが出てくる。近年、そこで経験を積んだ制作者が再びフリーになって、民間の制作会社を立ち上げたりする一方で、大学でアーツマネージメントを学んだ新たな世代の制作者が出現してきた。アーティストの数に対してプロデューサーは足りておらず、若い世代のプロデューサー志望者も増えているが、雇う側が必要なスキルと、プロデューサー志望者が持っている経験とがなかなかマッチしないのが現状だという。日本の状況と似ていなくもない。

午後8時からSOTA(School of the Arts)でロビン・オーリン(Robyn Orlin)の“And So You See Our Honourable Blue Sky And Ever Enduring Sun… Can Only Be Consumed Slice By Slice” を観劇。