豊岡演劇祭×ON-PAM NPM2024 誰と、どう、協働する? レポート

2026.7.1

日時:2024年9月20日(金) 21:00-22:00
会場:まちの基地アンテナ

スピーカー:
文(ダンスカンパニーMi-Mi-Bi制作、NPO法人DANCE BOX)
松岡大貴(豊岡演劇祭 プロデューサー/コーディネーター、一般社団法人COs)

聞き手:松波春奈(ON-PAM事務局)


豊岡演劇祭×ON-PAM NPM2024 誰と、どう、協働する?

次世代のアートマネージャーのコミュニケーション促進企画として「Next Producers Meeting in 豊岡」を、豊岡演劇祭と連携して行った。3度目のコラボレーションとなる本企画では、アクセシビリティを高める試みをしている公演・フェスティバルの取り組みについてトークを展開した。ゲストスピーカーには、障害を持つパフォーマー/アーティストを含むダンスカンパニー「Mi-Mi-Bi」で制作を担う文(あや)氏と、豊岡演劇祭のプロデューサー松岡大貴氏を迎えた。なおMi-Mi-Biは2022年に豊岡演劇祭で旗揚げ公演を行った経緯を持ち、本企画の翌日にも公演を開催している。聞き手は、ON-PAM事務局の松波春奈が担当した。

企画冒頭では、まず2024年度の豊岡演劇祭におけるアクセシビリティの試みについて松岡氏が解説。試みは大きく二つあり、ひとつはMi-Mi-Biの公演、もうひとつは『銀河鉄道の夜』舞台手話通訳付き公演だ。特にMi-Mi-Bi公演は障害と向き合う当事者が出演するため、障害を持つ人の来場を当然のことと考えて制作側は対応を開始した。対応のひとつとして松岡氏らは、アクセシビリティ演目を「手話通訳付き」「字幕」といったキーワードから選べるシステムを導入。

この導入に際しては、フリンジプログラムの全団体に対して「台本貸し出し」「車椅子入場」などの可否についてリサーチをかけている。このリサーチ協力が団体にとって過重にならないかと松波が質問すると、松岡氏は詳細なキーワードを提示することで団体側が「何が可能か」を悩むストレスを軽減したと説明。また団体の多くはアクセシビリティについて基本的にポジティブであり、少なくとも人的面での対応は過重と感じていないと答えた。
『銀河鉄道の夜』の手話通訳付き上演では、入退場をいつでもOKにするなどリラックスパフォーマンスも導入して観劇の敷居を下げている。これらの対応について松岡氏は、会場の都合で全てがうまくいったわけではないが、対応の中で得た知見は財産になったと語った。

次いで文氏は、Mi-Mi-Biと豊岡演劇祭の縁について語る。Mi-Mi-Biは、2022年2月のDANCE BOXのトライアル・ダンス公演「未見美(Mi-Mi-Bi)」を契機として結成された。Mi-Mi-Biの旗揚げ公演について文氏らは当初、プロフェッショナルなパフォーミングアーツの文脈での開催を目指して会場を探していたという。その中で豊岡演劇祭フリンジの公募を偶然に知り、同演劇祭での旗揚げが実現した。この旗揚げ公演は、豊岡市民プラザで開催された。当初Mi-Mi-Biは、一会場を複数団体で共有する「ショーケース」枠で応募したが、同枠の会場にバリアフリーの受け入れ体制がないため、参加枠を変更。受け入れ体制を持つ市民プラザでの上演に至っている。

このエピソードを受けて松波が、車椅子ダンサーが出演した公演の制作時に感じた劇場探しの難しさに言及。また松岡氏も、宿泊先の探し難さを指摘。「ロビーにはスロープがあるのに、部屋には段差がある」「そもそもエレベーターに車椅子が入らない」といった課題は山積しており、地方行政も含めて考えていくべき問題であるとする。「求められる対応は全て行うべき」という大前提と、現実的な予算/リソースの限界との間には、当然ジレンマが生じる。

このジレンマについて文氏は、「できないよりはできた方がいい」というスタンスで向き合い、「べき」論では考えずに「これが今回の精一杯」「次の時にクリアできればいい」と考えるようにしていると語る。移動や宿泊などに関する現実的な落とし所については「一番大変な人に合わせることが多い」と答え、同時に「落とし所に向けた話し合いの時間は非常に長い」とも語った。

話し合いの難しさに話題がおよぶ頃、翌日のMi-Mi-Bi公演でドラマトゥルクを担うdracomの筒井潤氏もトークに加わった。筒井氏は、障害を持つ人が話し合いで意見を折らない場合、それなりの強い意志と倫理観に基づいていることを指摘。文氏も、それぞれのバックグラウンドや環境が異なるため、いわば異文化・異言語の人と協働するような難しさはあると話す。

これを受けて松岡氏は、クリエイションに関するぶつかり合いはポジティブな結果につながる可能性もあり、Mi-Mi-Biにおける意見の摺り合わせは特にポジティブに見えたと発言。さらに松岡氏は、個々人の差異を身体性の次元で強く表出するMi-Mi-Biの魅力にも触れる。古典的なバレエなどと異なる文脈の身体性に基づいた表現の自由の獲得のみならず舞台芸術の文脈も踏まえた作品の構築を目指すMi-Mi-Biは、大きな魅力があり惹かれると語った。

障害を持つ人とのコミュニケーションについては、文氏は「一度でもガイドの経験があればハードルは低くなる」と説明。要は出会いの数の問題であり、「出会った3分後から世界は変わっていく」とも語る。松岡氏も、段差や多目的トイレなど物理的設備の面でのハードルは高いが、少なくとも人間ができることにおいてはさほど困難はないとする。

終盤に近づき、話題は舞台芸術とアクセシビリティの関係そのものに移った。松波が、アクセシビリティを対象とする助成プログラムがプロデュースに与えている影響について問いかけると、松岡氏は、フェスティバルの制作側としてはアクセシビリティ対応を行わない理由がないとする。対応範囲を広げるほどターゲットが増え、アーティストも観客も増加するため、「やればやるほど追い詰められる」といった感覚はないという。その一方で、単発の小劇場公演などの場合は対応に限界があることにも理解を示した。

筒井氏は、経済的な事情を優先するとアクセシビリティの取り組み自体が停滞する危険性を指摘しつつも、あるエピソードを紹介する。京都芸術大学の研究事業の一環として創られた、大阪市内の旧陸軍墓地を扱った作品『墓地の上演』を演出した際、筒井氏は上演後の対話の時間に「手話を入れたい」という希望を受け、手話通訳の手配を行ったが、観劇した耳の聞こえない人から「なぜ、この作品を自分が観なければいけないのか」という意見が出たという。筒井氏は、この意見について「ずっとひっかかる感じがある」と述懐。そして「何かの問いにはなっていると感じた」と語った。

終盤、文氏はMi-Mi-Biについて「多様な身体性と背景をもつ表現者も力を発揮できる舞台芸術 」の実現を目指していると強調。そして、舞台の上だけでなく観客席も同じ状況になれば、社会はもっと豊かになるとも語った。松岡氏は、「芸術作品そのものが多様な価値観を拡張していく試みである以上、参加できる人の幅を狭めていいわけがない」として、多様な価値観に触れられる場所の重要性を確認し、本企画を締めくくった。