Next Producers Meeting トーク「学生演劇のその先へ ― 卒業後の“続け方”を考える―」レポート
2026.10.9
日時:2026年3月6日(金)19:00〜21:00
会場:メニコンシアター Aoi 5階 会議室
スピーカー:
佐和ぐりこ(オレンヂスタ)
鋤柄遼(ぴあ)
たちばなせつこ(メロンパンクリエイション)
伊藤美笑子(公共ホール職員/テーテトニコ/ON-PAM理事)
進行:平松隆之(劇団うりんこ)
主催:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク、全国学生演劇祭実行委員会
共催:公益財団法人メニコン芸術文化記念財団
Next Producers Meeting トーク「学生演劇のその先へ ― 卒業後の“続け方”を考える―」
愛知県名古屋市のメニコン シアターAoiで開催された「Next Producers Meeting
(NPM)」は、第11回全国学生演劇祭の関連企画として、次世代を担う学生や若手制作者たちのキャリアデザインを支援するために開催されました。
本レポートでは、フリーランス、民間制作会社、コレクティブ、公共ホールという異なる立場で活躍する4名が登壇し、各自が演劇に関わるきっかけを話しつつ、それぞれの職歴をもとに、今後制作を目指す学生や 若手制作者達に向けて、多様な視点から語りました。
学生演劇から演劇を始め、就職を経て独立した佐和ぐりこ氏からはフリーランスの実態と職能について話されました。大学を卒業して数年後に劇団オレンヂスタを旗揚げし、社会人と演劇を両立してきた佐和氏は2012年の「Next Producers Camp」に参加したことがひとつの転機になったといいます。演劇活動を続けるなかで、これまで広告会社時代に培ったスキルが舞台制作の職能にそのまま活きていることを再確認し、演劇制作の比重が増えたこともあって、フリーランスへの転換を決意しました。「制作の仕事は舞台上で起こること以外全部」とも言われる業界で、仕事を請ける際には制作の業務範囲を依頼者と擦り合わせることの重要性を説きました。また、フリーランスで働く上での注意点として、収入が公演後にまとめて支払われることが多い点や、有給もなく業務時間も決まっていない中での体調管理の大切さも話されました。
ぴあ株式会社に勤務する鋤柄遼氏からは、主に企画立案・予算組みについての話に注目が集まりました。民間企業の制作者である鋤柄氏は演劇を持続可能なビジネスとしてどう成立させるかを常に考えていると言います。架空の公演予算書をベースにチケットの金額設定の考え方、公演以外での収益化の話をされました。健全にお金がまわることで、次の展望が見える。作りたい作品を作り続けるためにこれからも努力をしていきたいと語りました。
企画制作団体「メロンパンクリエイション 」を運営するたちばなせつこ氏からは、看護師という職業柄、変則的なシフトが組まれる中で、どうやって演劇を続けていくかについて話がされました。行きついたカタチがチーム制作・コレクティブであると語ります。シフトが変則であるため個人では引き受けづらい依頼もチームであることで、仕事をパスしたり代打を立てたりすることができる。また劇団や劇場など特定の何かに帰属しない分、フェスや企画を請け負ったりしやすく、そこで広がった人脈が次の活動につながり、そこにも魅力を感じていると話されました。
公共ホールの職員として三重、滋賀、岐阜と渡り歩いてきた伊藤美笑子氏。まずは知っているようで知らない、劇場組織の構造や事業内容などが分かりやすく提示されました。そんな中、市民や地域と向き合いながら事業を組み立てることのやり甲斐を感じつつ、内部での異動や、外部とのネットワーク形成の難しさについて語りました。様々な職能の人々が集う組織内では制作者が孤立したり、学びの機会が少ないことへの不安もあり、個人として様々な活動を始めたと語ります。また組織と個人は反目するものではなく、双方の経験が互いによい影響を与えるものだと語られました。
後半は「車座トーク」と題して、参加者と登壇者の自由な意見交換が行われました。
大学4年生の参加者からは「卒業後も制作を続けたいが、すぐにフリーで稼げるとは思わないし、名古屋には制作会社もない。劇場も経験者採用が多く、どうすればいいか悩んでいる」という話が出ました。参加者からは「団体に入ると、必ずしも自分がやりたい仕事がもらえるとは限らない。だとしたら、他に働きながら自分のしたい事をするのも、時間配分からすると変わらないかもしれない。」「組織の魅力もあるので、まずは仕事を任せられるだけの働きや自分を磨くことが大切。」「例えば企業もPRのために役者に頼みたいときもあるが、どこに頼んだらいいか分からず、結局人づてになることがある。仕事がないのではなく、出会う仕組みが確立されてないのが課題だと思う。」「20代は武器を増やす、30代は武器を使う。勉強するにもお金が必要。」「自分に足りないモノをすべて習得できなくても、人を集めて実現させる方法もあると思う。」など多様な意見が出されました。
また、創作と制作のバランスについても話されました。「アーティストはイイものを作りたい、制作は予算内に収めたいという中でどう折り合いを付けるのか。」「一見すると対立しそうな構図だが本当にそうだろうか、共に目的が同じなら双方が歩み寄れる。」「今後も互いに続けていきたいと思うなら、お金の話は重要。どこかでこの事に真摯に向き合い、解決していく努力が必要だ。」「予算のことはネガティブに捉えるのではなく、今後のためにポジティブに捉えられるのでは。」と言った話で盛り上がりました。
今回の企画を通じて、一口に制作者と言っても多様な働き方、関わり方があること、それが名古屋でも実践されていることに一つの希望を感じました。こうした実践が首都圏に限らず共有されていることは、今後の進路を考える学生や若手制作者にとって、選択肢を具体的に捉える きっかけとなりました。
執筆:平松隆之
撮影:小川舞華